OECD、評価困難な無形資産(HTVI: Hard-To-Value Intangibles)に関する実施ガイダンスを公表

OECD、評価困難な無形資産(HTVI: Hard-To-Value Intangibles)に関する実施ガイダンスを公表

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EY 税理士法人

2017年6月14日
カテゴリー BEPS

Japan tax alert 2017年6月14日号

エグゼクティブ・サマリー

2017年5月23日、経済協力開発機構(OECD)は、「税源浸食と利益移転(BEPS: Base Erosion and Profit Shifting)」行動8に関連して、評価困難な無形資産(HTVI)に関する実施ガイダンスについてのディスカッション・ドラフト(「ディスカッション・ドラフト」又は「ドラフト」)を公表しました。「ディスカッション・ドラフト」はHTVIに対する評価手法(HTVI手法)の実施に関するガイダンスを提供するものです。

HTVI手法は、BEPS行動8~10(「行動8~10報告書」)1の移転価格設定に関する最終報告書に規定され、「OECD移転価格ガイドライン」(OECD移転価格推奨事項)に正式に取り入れられています2。「ディスカッション・ドラフト」には、1)HTVI手法の実施の根底を成すべき原則、2)異なるシナリオ下でのHTVI手法の実施を明確に示す3つの事例、3)HTVI手法と、適用条約(適用法)下の相互協議手続き(MAP)へのアクセスとの相互作用、の3項目を呈示する3つのセクションが含まれます。「ディスカッション・ドラフト」に含まれるガイダンスは、HTVI手法の適用に起因する調整をどのように行うかについて、税務当局者間の共通の理解と実践を実現することを目的とするものです。

「ディスカッション・ドラフト」に含まれる提案は、OECD租税委員会の共通見解(コンセンサス)を示すものではなく、2017年6月30日を期限としたパブリック・コメント募集(意見公募)に応じる機会を提供するため、草案の形で公表されたものです。

詳細な議論

HTVI手法実施の根底を成すべき原則

移転価格設定を目的としたHTVIの扱いは、「行動8~10報告書」、セクションD.4に記載されています3。ガイダンスは、HTVIの潜在価値に係る納税者と税務当局者間の情報の非対称性に対処するために開発(策定)されたものです。要約すると、HTVI手法は、税務当局に対し、予測に基づく価格設定の適切性に関する推定証拠として、HTVI取引の財務結果の実績(無形資産がどのくらいの価値を持つものとなったかに関する、事後的に収集された情報)を用いることを認めるものです。「行動8~10報告書」は、特定の状況について、あるいは、かかる推定証拠が使われない可能性のある「セーフハーバー」についても解説しています。財務結果の実績は、取引時点における評価価値(バリュエーション)の決定に関する情報を提供しますが、想定される改定評価価値は、HTVIの取引時点におけるかかる所得あるいはキャッシュフローが実現する蓋然性(発生確率)を考慮しない、実際の所得あるいはキャッシュフローに基づいたものであるべきではありません。

「ディスカッション・ドラフト」は、HTVI手法のタイミングに関する課題について論じています。税務当局は、この点に関し、可能な限り早期の時点でHTVI取引を認識し、それに対処するための、調査手続を適用する必要があります。もっとも、当該手法に特有のこととして、無形資産の移転に関する財務結果の実績が、取引後、速やかに入手できない可能性があります。取引時点から税務当局が財務結果の実績を入手できるようになるまでの間に経過する時間は、特に、取引終了後、何年にもわたって商業活動に利用されることのない無形資産の場合、調査サイクル、あるいは、行政上定められた期間並びに除斥期間に常に対応するわけではないことが認識されています。

「ドラフト」に明記されたガイダンスは、一国の通常の調査手続きを遅らせたり回避したりするために使われるべきではありません。短期の調査期間あるいは除斥期限などが原因となって、HTVI手法の実施に際して困難な事態に直面する国があるかもしれません。そのような国は、実施にかかるこのような課題に対処するため、HTVIの移転に際して強制的に求められる速やかな通告、あるいは、通常の除斥期限の改訂等、手続き又は法律に的を絞った改訂を検討する必要があります。

「ディスカッション・ドラフト」は、税務当局による改訂には、納税者が採用した価格設定方法の調整が含まれる可能性があることを繰り返し述べています。一方、「ドラフト」も、「行動8~10報告書」、セクションD.4に記載されたHTVIのガイダンスとの整合性が保たれるよう、HTVI手法の根拠となる原則を規定しています。

事例

「ディスカッション・ドラフト」に含まれる事例は、HTVI手法の適用に起因する移転価格調整の実施の実際例を解説するものです。事例1のシナリオAは、納税者が、予見不可能ではない可能性を適切に考慮したことを証明できない場合について解説しています。その結果、税務当局は、価値評価に際してかかる可能性が考慮された価格評価を算定するため、推定証拠を使うかもしれません。したがって、当初のバリュエーションは改定されることとなり、税務当局には価値の差異に起因する移転価格設定の調整を行う権利が与えられます。事例1のシナリオBは、「行動8~10報告書」、6.193項(20%の乖離)の除外要件iiiが適用され、従って、HTVI手法は適用されない状況を解説しています。

事例2では、事例1と同様、HTVI手法の適用の結果、税務当局に調整を行う権利が与えられる場合が解説されています。当事例では、一括払いに対する大幅な改定が行われた結果、(当初の一括払いと重要なマイルストーンに基づいた追加的・偶発的支払の組み合わせ等の)代替決済体系の方が適切であるかどうかの検討が必要となる状況が生じます。代替決済体系は、特定の展開が十分に予測可能ではないという事実に(より)一貫したものとなるかもしれません。かかる代替決済体系は、同一の業界セクター内の比較可能な状況における無形資産の移転に対する価格設定の観測事例に基づいたものとなるかもしれません。

事例3は、除斥期間を経過していない年度において評価対象となるすべて一次調整並びにすべての対応的調整は、各国の国内法並びに取引に適用され得る除斥期限に関する規則に従って決定されることを示しています。「ドラフト」は、二国間の除斥期限の違いに関連する適切な租税条約に含まれる相互協議手続き(MAP)に従って、すべての二重課税の事例を解決することを各国に奨励するものです。

評価困難な無形資産(HTVI)並びに相互協議手続き

「行動8~10報告書」は、適切な租税条約に含まれる相互協議手続き(MAP)へのアクセスを通じたHTVI手法の適用に起因する二重課税の事例の解決を許可することの重要性を強調しています。したがって、本「ディスカッション・ドラフト」をBEPS行動14に関する最終報告と併せて読むと有効です。

影響

「ディスカッション・ドラフト」には、HTVI手法に関する実施ガイダンスの提案が含まれます。「ドラフト」に含まれるガイダンスにより、HTVI手法の適用の際に税務当局の一貫性が改善され、かかる無形資産に関連した関連者間取引における経済的二重課税のリスクが軽減されるべきです。

企業は、OECD並びに各社が事業を展開する各国における当該分野での動向を引き続き注視し、当該国際税務に係る議論の場での政策立案者との積極的な関与を検討する必要があります。

巻末注

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