CEOが直面する喫緊の課題:政治リスクを戦略的優先課題としているか CEOが直面する喫緊の課題:政治リスクを戦略的優先課題としているか

執筆者
Oliver Jones

EY Global Business Development, Markets and Insights Leader; EY-Parthenon Global Government & Public Sector Leader

Passionate about providing outstanding support to governments and businesses. Deeply committed to excellence in public policy. Team builder. Mentor. Flexible worker. Loving husband. Father of three.

Jon Shames

EY Global Geostrategic Business Group Leader

Helping businesses understand the implications of geopolitics. EY lifer (35 years!) Washington Capitals fan. Competitive tennis player and bad golfer. Arts and travel lover. Father, husband and son.

Courtney Rickert McCaffrey

EY Global Geostrategic Business Group Insights Leader

Geopolitical analyst and strategist. Creative methodologist. Proud feminist. Passionate about generating insights to help executives make better-informed decisions.

5 分 2021年11月8日

EYのGeostrategy in Practice 2021の調査結果から、政治リスクがビジネス上の課題をもたらしていることが判明しています。ここでは、積極的にリスクを管理することでいかに成長を促すことができるかについて考察します。

要点
  • リーダーは政治リスクを重視する姿勢を強める一方で、自らのリスク管理能力に対する自信は低下している。
  • リーダーは、政治リスクが及ぼす潜在的な影響を特定、評価、低減するために前向きで力強いアプローチを必要としている。
  • EY Geostrategy in Practice 2021の調査結果より、CEOが政治リスク管理を戦略的優先事項にする際に鍵となる5つの提言を示す。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大により、企業のリスク管理能力が大いに試されています。EYのGeostrategy in Practice 2021(PDF、英語版のみ)の調査結果では、経営幹部の90%以上が、公衆衛生上の危機への対応で政府が政策や規制を転換している中、過去12カ月で会社が予期せぬ政治リスクの影響を受けたと回答しました。しかし、リーダーの3分の1近くが、新たに起こる政治リスクにはたびたび意表を突かれたということです。つまりは、自社に影響を及ぼす問題をうまく特定できるかについては、コインを投げて裏表を当てるコイントスと同然だったのです。

実際、経営幹部の94%が過去1年間で組織の政治リスク管理の取り組みに中程度、または著しい変更を加えたと述べていることからも、リスクの予測や低減を行う体制を強化する必要があると言えるでしょう。こうした状況は良い傾向ですが、一方でリーダーはこのように対策を講じながらも、昨今の予想外の、そして前例のないような政治リスクのインパクトを受けてきています。その結果、自社の政治リスク管理能力に対し自信を低下させているのが現状です。パンデミックが起きる前までは、世界各国の経営幹部の74%が自社の政治リスクの管理能力に強い自信を示していましたが、現在この割合はわずか55%です(図1を参照)。

この調査結果では、政治リスク管理の強化が戦略上必要であることが示唆されます。世界各国の経営幹部の92%が、政治リスクが今後数年は、高い水準にとどまるか、もしくはさらに上昇するとみていることからも、政治リスク管理の強化は不可欠です。Geostrategy in Practice調査の結果からも、政治リスク管理により積極的なアプローチをとっている企業ほど、自社のリスク管理能力に対して自信を持ち、より大胆な戦略的決定を下すことが判明しています。

私たちはCEOが直面している喫緊の課題を意識しすぎるあまり、取り組むべき課題をさらに増やすことはしたくありません。しかし、この1年間で政治リスクがもたらす課題が浮き彫りとなったことから、EYのシリーズ記事であるCEO Imperative Studyでも、この問題を取り上げることにしました。このシリーズでは、組織の未来の再構築に役立つクリティカルな対策と具体的なアクションについて紹介しています。では、企業は地政学戦略をどのように実践に移していけばよいのでしょう。EYの調査結果から、鍵となる提言5つをまとめました。

1. 政治リスクの量的指標を特定して収集する

政治リスクに関する定量データを定期的に収集している企業は全体の3分の1に過ぎません。政治リスクの把握の強化に優先的に取り組んでいる経営幹部のうち、ほぼ半数が指摘しているのは、定量データがその鍵を握っているということでした。企業において、政治リスクの定性分析の実施は必須ですが、それだけでは十分でありません。量的指標を収集し、政治リスク特定とモニタリングを行うシステムに組み込む必要があります。腐敗指数やカントリーリスクレイティングのような広範囲なデータの量的指標を加えることで、主要な市場において新たに出現するリスクを特定し、政治リスクの度合いをモニタリングする企業の取り組みを拡充させることができます。こうした指標は、政治リスクが自社に及ぼす潜在的影響のモデル化や政治リスクの全社リスク管理(ERM)への組み入れ、また、市場参入や市場撤退などの戦略的決定に関わる政治リスクの評価に役立っていくはずです。

2. 政治リスクが事業に及ぼす影響を評価する能力を伸ばし、習得する

世界各国の経営幹部の90%以上は、自社の成長と投資、業務、サプライチェーンが政治リスクによる打撃を受けるとみており、約4分の3が収益に影響が及ぶと予測しています(図5を参照)。経営幹部はまた、政治リスクに伴う課題を克服し、好機をものにするために最も改善すべき重要な領域として、政治リスクの影響を評価することを挙げています。部署または事業部レベルで政治リスクによる影響を評価する体制の整備に投資をし、この評価結果をまとめ、定期的に経営幹部と共有する必要があります。これらの部署または事業部門での評価結果は、政治リスクの潜在的影響として全社的評価に定期的に反映させなければなりません。また、部署もしくは事業部レベルでの評価を問わず、会社がモニタリングしている政治リスクの量的指標をモデルに組み込み、影響評価の結果を具体的に(例えば、収益への財務的な影響などとして)経営幹部と取締役会に報告する必要があります。

3. 政治リスクを全社的リスク管理(ERM)に組み込む

世界各国の経営幹部のうち、政治リスク管理をより広範囲のリスク管理に定期的あるいは積極的に組み込んでいると回答したのは、わずか23%でした。各企業は政治リスクを自社のERMプロセスに組み込み、直面する外部リスクの全体像を把握することが求められます。全社的リスク管理への組み込みでは、定量的な政治リスクの特定に伴い得られた情報や、政治リスクの影響についての具体的な予測結果を活用することで、特に大きな効果が期待されます。政治リスクを担当するERMチームは、財務的なリスクヘッジ手段やオペレーション上のリスクヘッジ手段、その他レジリエンスを高めるリスク戦略の策定・検討に積極的に取り組み、業績悪化などを招く政治リスクイベントによる経営への影響を最小限に抑える必要があります。また、業績向上などをもたらす政治リスクイベントに関連して、自社が生かすことのできる戦略的機会も同時に、積極的に特定する必要があります。

4. 政治リスクを戦略的プランニングに組み入れる取り組みに取締役会と経営幹部を巻き込む

2021年度の EYキャピタル・コンフィデンス調査で明らかになったように、地政学的な課題により、企業の約80%が戦略的投資の変更を余儀なくされています。そこで必要となるのが、これまで述べてきた知見やリスク管理活動をすべて織り込んだ事業戦略の策定です。この事業戦略には、政治リスクの動向が現行の戦略にどのような影響を与えるかについての定期的な評価を盛り込まなければなりません。また同時に、M&A、市場参入と市場撤退、海外拠点についての意思決定と先を見据えた戦略的プランニングに、前向きな政治リスク分析を取り入れる必要もあります。

経営幹部と取締役会も政治リスクについて研修を受講し、外部の専門家と定期的に交流を持つべきです。その上で、戦略的決定を下すにあたっての政治リスクの評価に積極的に関与し、政治リスクを企業文化に組み込む戦略上の重要性をトップも認めていることをはっきりと示すことが求められます。

 

5. 部門横断型の地政学戦略委員会を設置する

多くの企業で政治リスク・ガバナンスがサイロ化しているように見受けられます。政治リスク管理のガバナンスを担う委員会を設置している企業は全体の約40%に過ぎません。つまり、このガバナンスに対する責任を1つの部門か1人の個人が負う企業が多いということです。企業は、政治リスク管理の政治面、業務面、財務面を担う代表者などから成る部門横断型の地政学戦略委員会を設置する必要があります。各国のチームや各部門のチームが現地の政治リスクの情報を把握していたとしても、多くの場合、このようなリスクに関する情報がグローバルレベルで集約され、経営幹部へ適切に報告されていることはあまりありません。そのため、委員会には経営幹部と関係部門の両方から人を出す必要があります。また、委員会は定期的に開き、自社が直面する政治リスク、そのリスクが事業のどの部分にどのような影響を及ぼす可能性が高いか、対策に何をしているか、また何をすべきかについて話し合うことが求められます。取締役会への報告も頻繁に行われなければなりません。

このような取り組みを進めることで、政治リスク管理に対するアプローチがより積極的かつ包括的で、バランスの取れたものになっていくでしょう。また、政治リスクの特定、評価、管理に対し、より積極的に取り組むことで、経営幹部は自らのリスク管理能力に対する自信を高め、政治リスクに関する情報に基づいた、成長志向で、より大胆な戦略を追求する自信を得ることができるはずです。

サマリー

政治リスクが高まっており、今後も企業全体がその影響を受けることになるでしょう。しかし、多くの企業では政治リスク管理が後手に回っており、ERMにも組み込まれていません。経営幹部は、より積極的な部門横断型アプローチをとって政治リスクを管理し、大胆な戦略を後押ししなければなりません。

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Oliver Jones

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Courtney Rickert McCaffrey

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Geopolitical analyst and strategist. Creative methodologist. Proud feminist. Passionate about generating insights to help executives make better-informed decisions.