2022年4月28日
IFRSサステナビリティ開示基準に関する2つの公開草案

IFRSサステナビリティ開示基準に関する2つの公開草案

国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)がIFRSサステナビリティ開示基準に関する2つの公開草案(サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項及び気候関連情報の開示に関する要求事項)を公表しました。2022年下半期に利害関係者からのフィードバックを基に公開草案は最審議される予定です。

本稿の執筆者

EY新日本有限責任監査法人 サステナビリティ開示推進室/品質管理本部 IFRSデスク 公認会計士 竹下泰俊

2007年に当法人に入所後、主として医薬品、化学品等の製造業、サービス業などの会計監査に携わる。2017年よりIFRSデスクに所属し、製造業などのIFRS導入支援業務、IPO支援業務、研修業務、執筆活動などに従事。また、サステナビリティ開示推進室メンバーとして、主にIFRSサステナビリティ開示基準の開発に関する国際動向の情報発信を中心に活動している。

要点
  • 国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が、IFRSサステナビリティ開示基準に関する最初の2つの公開草案(サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項及び気候関連情報の開示に関する要求事項)を公表しました。
  • これら2つの公開草案のコメント募集期限は2022年7月29日で、ISSBは、2022年下半期にこれらのEDを再審議することを予定しています。
  • 気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が提言しているフレームワークに基づいた4つのコアとなる要素(ガバナンス、戦略、リスク管理及び指標と目標)について開示することが求められます。

Ⅰ はじめに

2022年3月31日、国際サステナビリティ基準審議会(以下、ISSB)はIFRSサステナビリティ開示基準に関する2つの公開草案を公表しました。今後も、ISSBはサステナビリティ関連の基準を公表する予定で、今回最初に公表された2つは、「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項(以下、全般的要求事項)」と「気候関連開示(以下、気候関連開示の要求事項)」の公開草案になります。本稿では、これら2つの公開草案の概要について解説します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。

Ⅱ 公開草案公表の背景

国際的に統一されたサステナビリティに関する基準開発が早急に求められる中、その任を担うことになったIFRS財団が、21年11月3日、COP26においてISSBの設立を公表するとともに、同財団の技術的準備ワーキング・グループ(TRWG)が、上記2つの要求事項にかかる基準原案(プロトタイプ)を公表しました。そして、ISSBの議長及び副議長の指示の下、プロトタイプを進化させた2つの公開草案が公表され、現在利害関係者からのコメントが募集されています。

なお、TRWGは基準を「全般的要求事項」「テーマ別要求事項」「産業別要求事項」の3つで構成することを提案していますが、気候関連開示の要求事項はこの「テーマ別要求事項」に該当します。同グループによると、テーマが資本市場に認知され、産業横断的な指標が実行可能であり利用可能等の要件を満たすことで、今後新たなテーマが設定されることが提案されています。

本稿では、「全般的要求事項」と緊急性が高いテーマとして基準化が急がれる「気候関連開示の要求事項」について、それぞれⅢ、Ⅳで解説します。

Ⅲ 全般的要求事項

1. 目的

「全般的要求事項」の目的は、一般目的財務報告の利用者が企業に経済的資源を提供すべきか否かに関する意思決定を行う際に有用となる、サステナビリティ関連リスク及び機会に対する企業のエクスポージャーに関する全てのMaterial(重要性のある)情報の提供を企業に求めることです。ここでポイントとなっているのは、あくまで経済的意思決定に資する情報提供であり、企業価値評価のための情報開示にフォーカスしている点です。

2. 重要性

前述の「重要性のある」情報とは、開示すべき情報として何が省略できるかという観点から述べられています。つまり利用者の経済的意思決定に影響を及ぼすと合理的に予想される情報を省略したり、誤表示したり脱漏した場合には重要性があるとされています。また、重要性は情報が関連する項目の性質や規模(その両方)に基づき企業固有のものという側面があり、基準案では重要性の閾(いき)値について明示されていません。

3. 4つのコアとなる要素

IFRSサステナビリティ開示基準が他の開示を認める又は要求する場合を除き、ガバナンス、戦略、リスク管理及び指標と目標について開示することが求められます。このアプローチは、IFRS財団が昨年公表した協議文書において求めた利害関係者からの意見を反映し、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が提言しているフレームワークに基づいたものです。これら4つの内容はⅣの気候関連開示の要求事項で解説します。

4. 参照する基準

指標を含む重要なサステナビリティ関連リスク又は機会に関する開示を特定するためには、関連するIFRSサステナビリティ開示基準を参照します。特定のサステナビリティ関連事項に具体的に適用されるIFRSサステナビリティ開示基準が存在しない場合、経営者には目的適合性を有する開示を識別するために判断が求められます。この判断を行うに当たり、IFRSサステナビリティ開示基準の要求事項と矛盾しない範囲で、産業に基づく米国サステナビリティ会計基準審議会(SASB)の基準、ISSBの強制力は持たないガイダンス(水及び生物多様性関連の開示に関するCDSBフレームワークの適用ガイダンスなど)及びその他の基準設定主体の直近の基準等の文書に含まれる開示トピックに関連する指標を考慮することになります。

Ⅳ 気候関連開示の要求事項

1. 目的

「気候関連開示の要求事項」の目的は、利用者が次のことを可能にするために、気候関連リスク及び機会についてのエクスポージャーに関する情報を企業に提供するよう求めることです。

  • 重要な気候関連リスク及び機会が企業価値に及ぼす影響を評価すること
  • 企業の資源利用並びにそれに対応するインプット、活動、アウトプット及び成果が、重要な気候関連のリスク及び機会を管理するための企業の対応及び戦略をどのようにサポートするかを理解すること
  • 計画、ビジネス・モデル及び事業を重大な気候関連リスク及び機会に適応させる能力を評価すること

2. 4つのコアとなる要素

「気候関連開示の要求事項」では、気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)の提言に由来する以下で示す4つの柱(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標及び目標)に沿った目的適合性を有する情報の開示を求めています(<図1>参照)。

図1 気候関連開示の要求事項における4つのコアとなる要素
  • ガバナンス
    気候関連リスク及び機会をモニタリングして管理するために企業が用いるガバナンス・プロセス、統制及び手続。

    公開草案では幾つかの開示義務事項が明示されていますが、例えば、気候関連リスク及び機会を監督する組織が、企業戦略、主要な取引の意思決定及びリスク管理方針を監督する際に気候関連リスク及び機会をどのように考慮しているかについて開示することが求められています。

  • 戦略
    以下を含む、短期、中期及び長期にわたって企業のビジネス・モデル及び戦略を改善する、阻害する又は変更する気候関連リスク及び機会
    • 気候関連リスク及び機会に関する情報は、経営者の戦略及び意思決定に影響を及ぼしているか、またどのように影響を及ぼしているか
    • 気候関連リスク及び機会がビジネス・モデルに現時点で及ぼしている影響及び今後及ぼすと見込まれる影響
    • 短期、中期及び長期にわたって、企業のビジネス・モデル、戦略及びキャッシュ・フロー、資金へのアクセス及び資本コストに影響を及ぼすと合理的に見込まれる気候関連リスク及び機会の影響
    • 気候関連リスクに対する企業戦略(ビジネス・モデルを含む)のレジリエンス
  • リスク管理
    気候関連リスクが企業によりどのように識別、評価、管理及び軽減されているか

    公開草案では幾つかの開示義務事項が明示されていますが、例えば、リスク管理目的のために気候関連リスクを識別するためのプロセス(例えば、他の種類のリスクと比較して気候関連リスクをどのように優先順位付けしているか)について開示が求められています。

  • 指標及び目標値
    気候関連リスク及び機会の業績及び成果に関する企業の取り組みを管理・モニタリングするために使用される指標及び目標値。

    これには、業績目標の達成度合いを測定するために企業が用いる、定性的開示及び目標を裏付ける測定値が含まれます。企業は、産業横断的な及び産業固有の指標を開示することを求められます。さらに、企業は指標を選択及び開示するに当たり、それらの金額と付随する財務諸表で認識・開示される金額との関係を検討しなければなりません。

V おわりに

ISSBの議長及び副議長は、IFRS財団の評議員会が改訂後の定款において定めたオプションを行使し、ISSB審議会メンバーの定足数に達する前に本公開草案を公表しました。これは、基準のプロトタイプに関するTRWGの準備作業の完成度が高く、高品質であったこと、及び特に気候変動に関しすでに確立したフレームワークと要求事項に基づく基準開発を早急に求める利害関係者からの要請が背景にありました。

ISSBは、22年下半期に利害関係者からのフィードバックを基に公開草案を再審議することを意図しており、これらの提案に基づき最終的に開発されるIFRSサステナビリティ開示基準を迅速に公表することを目指しています。

今後公開草案から基準最終化への流れのスピード感を考えると、サステナビリティ関連の国内及び海外の動向に注視するとともに、財務諸表開示との結合性も考慮した企業報告について検討することが大切になってきます。

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サマリー

国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)がIFRSサステナビリティ開示基準に関する2つの公開草案(サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項及び気候関連情報の開示に関する要求事項)を公表しました。2022年下半期に利害関係者からのフィードバックを基に公開草案は最審議される予定です。

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この記事について

執筆者 EY 新日本有限責任監査法人

グローバルな経済社会の円滑な発展に貢献する監査法人

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