EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 会計監理部 公認会計士 宮﨑 徹
品質管理本部 会計監理部において、会計処理および開示に関して相談を受ける業務、ならびに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事するとともに、主に製造業の監査業務に従事している。主な著書(共著)に『会社法決算書の読み方・作り方(第17版)』(中央経済社)がある。
EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 会計監理部 公認会計士 廣瀬 由美子
品質管理本部 会計監理部において、会計処理および開示に関して相談を受ける業務、ならびに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事している。
有形固定資産は企業の事業を遂行する上で、必要不可欠な資産といえるでしょう。したがって、有形固定資産に関する会計処理も慣れ親しんでいることが多いかと思います。しかし、通常とは少し異なるようなケース、例えば、取得に際して補助金を受領したり、交換により取得したりといった場合に、どのような会計処理になるかすぐに思いつかない方もいるのではないかと思います。それは、有形固定資産に関連する会計基準は包括的に定められているわけではなく、各場面でどの会計基準等を参照するかという点が非常に分かりづらくなっていることが原因ではないかと思います。
そこで、本稿では、有形固定資産に関連して会計処理が生じる場面ごとにどの会計基準等を参考にすべきかをまとめます。
なお、文中意見に係る部分は筆者らの私見である旨、あらかじめお断り申し上げます。
会計基準で明確な定義があるわけではありませんが、一般的に、有形固定資産とは、物理的な形態をもち1年を超える長期にわたり利用される事業用資産をいいます。その範囲は、財務諸表等規則第22条及び会社計算規則第74条第3項第2号において<表1>のとおり規定されています。
また、これらの有形固定資産を分類すると<表2>の3種類に分類されます。償却資産に係る減価償却については、後述「4. 減価償却方法」及び「5. 耐用年数・残存価額の設定」にて、また、減損処理については、「9. 減損」にて説明します。
企業会計原則では、有形固定資産の取得原価には、原則として当該資産の引取費用等の付随費用を含めるとされていますが(企業会計原則第三 五D)、取得の形態による具体的な定めはないため、「企業会計原則と関係諸法令との調整に関する連続意見書」(以下、連続意見書)を参照することが考えられます。連続意見書第三 第一 四では、それぞれ取得の形態に合わせて<表3>のとおりとされています。なお、該当がある場合には、これらの取得原価に、資産除去債務に対応する除去費用を加算することになります(詳細は「8.資産除去債務」参照)。
国庫補助金や工事負担金等で取得した資産の取扱いについては、企業会計原則注解(注24)で定められています。
有形固定資産の取得原価について、国庫補助金、工事負担金等に相当する金額をその取得原価から控除する方法(直接減額方式)が認められています。
また、監査第一委員会報告第43号「圧縮記帳に関する監査上の取扱い」(以下、圧縮記帳取扱い)においても、圧縮記帳に関する税法の規定を適用して行う会計処理について、税務上認められた圧縮記帳額を積立金方式により積立金として計上する方法のほか、直接減額方式による会計処理を行った方法も、実務上、認められるとされています。
交換取引については、前述「2. 取得原価の決定」のとおり、連続意見書第三 第一 四 4で定められており、自己所有の固定資産と交換に固定資産を取得した場合には、交換に供された自己資産の適正な帳簿価額をもって取得原価とするとされています。
また、圧縮記帳取扱いでは、交換による取得資産について、有形固定資産の圧縮記帳に関する税法の規定を適用し、取得資産の帳簿価額として、譲渡資産の帳簿価額を付す場合、譲渡資産と同一種類かつ同一用途であるときは、当面、妥当なものと取り扱うこととされています(圧縮記帳取扱い一 1)。
減価償却の主たる目的は、適正な費用配分を行うことによって、毎期の損益計算を正確に行うことであるため、減価償却は所定の減価償却方法に従って、計画的、規則的に実施しなければならないとされています(連続意見書第三 第一 二)。
前記の減価償却方法については、企業会計原則第三五及び同注解(注20)で定められています。
ここで、企業会計原則及び同注解では、取得した有形固定資産は、その取得原価を当該資産の耐用期間にわたり、定額法、定率法等の一定の減価償却の方法によって、その取得原価を各事業年度に配分しなければならないとされています。企業会計原則では、減価償却の方法として、定額法、定率法、級数法及び生産高比例法が掲げられており、実務上は法人税法の規定に従った方法を採用している企業が多いと考えられます(参考:監査・保証実務委員会実務指針第81号「減価償却に関する当面の監査上の取扱い」(以下、減価償却取扱い))。この他、減価償却の方法ではありませんが、取替資産に係る費用配分の方法として取替法が挙げられています。
また、この減価償却の方法は、企業が決定する会計方針であるとされていることから(企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬(びゅう)の訂正に関する会計基準」(以下、過年度遡(そ)及会計基準)第4-5項(3))、正当な理由により変更を行う場合を除き、毎期継続して適用することになります(過年度遡及会計基準第5項)。
耐用年数・残存価額については、減価償却取扱い第11項から第21項に定められています。
ここで、耐用年数は、減価償却資産(以下、資産)の単なる物理的使用可能期間ではなく、経済的使用可能予測期間に見合ったものでなければならないとされ、各企業が自己の資産の材質・構造・用途等のほか、使用上の環境、技術の革新、経済事情の変化による陳腐化の危険の程度、そのほか特殊的条件を考慮して自主的に決定すべきとされています。
また、同一条件(種類・材質・構造・用途・環境等が同一であること)の資産については、異なる耐用年数の適用は認められないとされています。
次に、残存価額は、有形固定資産の耐用年数到来時において予想される当該資産の売却価格又は利用価格から解体、撤去、処分等の費用を控除した金額であり、耐用年数と同様に各企業が当該資産の特殊的条件を考慮して合理的に見積りを行うべきものとされています。
しかし、耐用年数、残存価額について、多くの企業が法人税法の規定に従っているのが現状であり、企業の状況に照らし、不合理と認められる事情のない限り、当面妥当なものとして取り扱うことができるとされています(減価償却取扱い第24項)。
企業会計原則第三 五Dでは、耐用年数到来後の有形固定資産は、除却されるまで残存価額又は備忘価額で記載するとされています。
耐用年数到来後前に除却・売却した場合、その未償却残高は固定資産除却損、売却価額との差額は固定資産売却損益として会計処理されますが、当初の予定よりも著しく早期に資産を除却又は売却するなどにより処分する場合には、減損の兆候として取り扱う場合があります(企業会計基準適用指針第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(以下、減損適用指針)第13項(2))。
関係会社間の土地・設備等の売買取引については、監査委員会報告第27号「関係会社間の土地・設備等の売買取引についての監査上の取扱い」(以下、関係会社間売買取引取扱い)に定められています。
関係会社間の土地・設備等の売買取引は、貨幣価値の低落等によって著しく時価と乖(かい)離した帳簿価額が付されているものもあるので、利益操作に利用される場合も考えられるとされています。このため、売買価格は、関係会社間の当事者のみの合意により恣意的に決定することは妥当ではなく、不動産鑑定士などの鑑定により客観的証拠に従って売買価額を決定する必要があります(関係会社間売買取引取扱いⅢ.1)。
資産除去債務については、企業会計基準第18号「資産除去債務に関する会計基準」(以下、資産除去債務会計基準)及び企業会計基準適用指針第21号「資産除去債務に関する会計基準の適用指針」に定められています。
資産除去債務とは、有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるものをいいます(資産除去債務会計基準第3項(1))。資産除去債務はそれが発生したときに、有形固定資産の除去に要する割引前の将来キャッシュ・フローを見積り、割引後の金額(割引価値)で負債として計上し、同額を関連する有形固定資産の帳簿価額に加えることになります(資産除去債務会計基準第4項、第6項、第7項)。そして、資産計上された資産除去債務に対応する除去費用は、減価償却を通じて、当該有形固定資産の残存耐用年数にわたり、各期に費用配分されます(資産除去債務会計基準第7項)。
有形固定資産の減損については、「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」(以下、減損意見書)、「固定資産の減損に係る会計基準」及び減損適用指針に定められています。
有形固定資産の減損とは、資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった状態であり、減損処理とは、そのような場合に、一定の条件の下で回収可能性を反映させるように帳簿価額を減額する会計処理であるとされています(減損意見書三3.)。このため、有形固定資産は取得原価基準に基づき、取得原価を基礎として減価償却累計額を控除した額が貸借対照表価額とされていますが(企業会計原則第三 五)、資産の収益性の低下により収益性が当初の予想よりも低下した場合には、事業用資産の過大な帳簿価額を減額し、将来に損失を繰り延べないために減損処理が行われることになります。
なお、減損損失を認識するかどうかの判定は、減価償却の見直しに先立って行う(減損会計意見書 四 2. (2)①参照)とされていることから、減損損失の認識の判定後、減損損失の計上の有無にかかわらず、耐用年数の短縮又は残存価額について会計上の見積りの変更の要否の検討が行われることになります(減損適用指針第86項)。
前述のとおり、有形固定資産に関連して参照すべき会計基準等は多岐にわたります。各事象にて紹介した会計基準等をまとめると<表4>のとおりとなります。実際に会計処理を検討するにあたって、参照すべき定めを確認する際の目次代わりとして役立てていただけると幸いです。
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