2023年6月14日
主要国におけるBEPS2.0アップデートシリーズ1 GloBEルールに関する各国動向に対応できる体制を構築する

主要国におけるBEPS2.0アップデートシリーズ1 GloBEルールに関する各国動向に対応できる体制を構築する

執筆者 関谷 浩一

EY Japan メディア・エンターテインメントセクター・タックスリーダー 兼 タックス・ポリシーリーダー EY税理士法人 パートナー

2人の娘の父。趣味はドライブ、スキー、クルージング。好きなお酒はワイン。

投稿者
2023年6月14日

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BEPS2.0のGloBEルールは、各国制度の相互作用により納税額や納税地が変化する複雑なルールです。

対応するためには各国の動向を常にモニタリングし、変化に即応できる体制を構築することが必要です。そこで今回から主にGloBEルールに関する各国の対応方針、法制化の状況、各国の国内法との相関関係について、特に日本企業が留意する点を解説していきます。

要点
  • 多国籍企業はGloBEルールに関する各国の制度導入状況を常にモニタリングし、適切な対応ができる体制を構築する必要がある
  • GloBEルールの適用関係に影響を与える各国のQDMTT、IIR、UTPRの導入状況、CFC税制の改正などについて留意すべき
  • GloBEルールの適用によって、これまで得られていた税務インセンティブが失われる可能性があり、各国との再交渉も視野に入れる

これまでにない大きな影響をもたらすGloBEルールにどう対応すべきか

新しい国際税務の基準となるBEPS2.0は、2つのPillar(柱)で構成されています。Pillar1は多国籍企業の超過利益を全く新しい課税権により各国に分配する制度であり、Pillar2は各国で最低税率(15%)の法人税負担を確保することを目的とした新しいグローバルなミニマム課税制度です。その中核がGloBEルールです。

BEPS2.0の特徴は各国が協調して新税制を導入し、各国税制の隙間を利用して合法的に節税を図ってきた多国籍企業に対応することにあります。複雑な制度が各国で段階的に導入されるため、多国籍企業は各国の制度導入状況を常にモニタリングし、適切な対応ができる体制を構築する必要があります。とりわけ、Pillar2のGloBEルールは複雑だと言えるでしょう。

このGloBEルールの追加課税額は、主に次の3つステップを経て算定されます。①GloBEルールの対象となる事業体の特定、②追加課税額の計算、③追加課税額を支払う事業体の特定と支払うべき金額の特定です。

そもそもGloBEルールは、タックスヘイブン国や低課税国がGloBEルールを導入しないことを前提に、各国での導入状況にかかわらず最低税率15%が達成されるように設計されています。①から③の各ステップにおいて、子会社や地域統括会社の所在地国の現地税制の改正、GloBEルール導入の状況に変化があれば、追加納税額が変わるだけでなく、追加納税する法人や納税先の国も変化するという複雑な税制になっています。

EUや英国、韓国などではGloBEルールを2024年1月1日以降の開始事業年度から適用する方針であり、日本でも同年4月1日以降の開始事業年度から適用することが決まっています。ただ、シンガポールなどは2025年からと各国のスタート時期はバラバラで、導入期の混乱が予想され、1年目と2年目で納税先の国が変わることも頻発しそうです。

これほど大きな規模で、各国の税制の変動がグローバルレベルで税務コンプライアンスに影響を与える事例はこれまでありませんでした。そのため、本社税務部門が各国の税制改正を集中的にモニタリングすることが必須となっています。特に変動が激しい導入期においては、外部リソースの利用も検討する必要があるでしょう。
 

各国の税制がGloBEルールに影響を与えるパススルー、CFC税制、QDMTT、IIR、UTPR・・・

ここで各国の税制やGloBEルールの導入状況が、どのように追加課税額に影響を与えるのかを示しておきましょう。例えば、ある事業体の所得が、その所有者の所得として課税される場合(パススルー)には、GloBEルールでは、その所得および税額を当該事業体に振り替えて当該事業体の実効税率を計算します。また、配当に課される源泉税は、配当を受け取る株主ではなく、配当を支払う法人の税金として集計します。配当の源泉税は数が多く、これまでの連結会計プロセスではグループ会社間の取引として認識されていなかった情報であるため、情報をやり取りする仕組みの構築が必要です。

日本のタックスヘイブン税制のように、海外子会社の所得に親会社の所在地国が課税をするCFC税制は子会社の所得に対する課税であるため、GloBEルールでは、一定の調整を経たうえで、子会社の税額に加算されます。日本のCFC税制だけでなく、中間持株会社のCFC税制も対象となるため、関係各国で情報共有の仕組みをつくり、さらに今後の税制改正の動向に注意する必要があります。

また、その国に所在する構成事業体の所得に対する最低課税制度であるQDMTTは今後、追加課税額がGloBEルールと整合して計算されます。子会社所在地国でGloBEルールによるTop-up Taxが生じた場合は、IIRにより最終親会社の所在地国など他国で納税が生じることになります。その際、子会社所在地国としては税源をみすみす他国に移譲する結果になってしまうので、その国に所在する構成事業体の所得に対する最低課税制度であるQDMTTによって追加課税を行うことで、これを防止することができます。子会社所在地国がQDMTTを導入している場合は、Top-up TaxからQDMTTを優先して控除して、その残額がIIRの課税対象となります。低課税国のQDMTT導入状況および各国のIIRの導入状況のモニタリングが必要です。

さらに、最終親会社の事業構成体のうち、第三者が20%以上の持分を保有している構成事業体で、当該最終親会社の構成事業体を所有しているものをPOPEと言います。例えば、第三者から20%以上の出資を受けている現地子会社で、その現地子会社が他国に孫会社を保有している場合、POPE所在地国でのIIR導入状況によって、負担するTop-up Taxの総額と課税される国が影響を受けることになるため、留意が必要です。

このほか、IIRで課税漏れとなったTop-up Taxを取り切るUTPRについても各国の導入状況を注視することが必要となるでしょう。
 

税制インセンティブの改革とQDMTTの導入を各国が検討中

多くの国が海外企業の対内投資を促進するため、あるいは国内企業の海外投資を抑制し国内投資を推進するため、税務インセンティブを有しています。しかし、GloBEルールにより、税務インセンティブを利用しても税負担が最低税率の15%に引き上げられるため、効果は相殺されます。結果的に税源を海外に流出させることになることから、多くの国がQDMTTの導入とインセンティブ制度の改革を検討しています。

税務インセンティブの動向はGloBEルールの適用に大きな影響を与えますし、これまで得られていた恩典が失われる経済的なインパクトが大きくなる可能性があります。国によっては税務インセンティブが国家と企業との契約になっており、QDMTTの適用には個々の契約の再交渉が必要になる場合もあるでしょう。税務インセンティブを利用している企業は今後の動向を注視し、手遅れとならないよう積極的に関連当局と意思疎通を図る必要があります。

また、当初3年間に適用される移行期セーフハーバーも注目されています。もし判定要件に合致した場合は、その国のTop-up Taxはゼロと推定され、GloBE情報申告の負担が大幅に軽減されることになります。各国の税制やインセンティブ制度の改正により、セーフハーバーの適用可否に影響が生じます。

さらに、国内最低税制度が、GloBE上のQDMTTとして認められるかどうかは、企業グループにとって重要な問題です。今後法制化される各国のQDMTTの制度内容、GloBEルールから乖離しているポイント、QDMTTセーフハーバーが認められる場合には、その適用要件などを早めに把握し、情報収集プロセスや各国担当者の役割分担などGloBEルールへの対応プロセスに組み込んでいく必要があるでしょう。

サマリー

新しい国際税務の基準となるBEPS2.0の複雑なGloBEルールに対応するためには、各国の動向のモニタリングや変化に即応できる体制の構築が必要です。
GloBEルールに関する各国の対応方針、法制化の状況、各国国内法との相関関係について、特に日本企業が留意する点を解説していきます。

この記事について

執筆者 関谷 浩一

EY Japan メディア・エンターテインメントセクター・タックスリーダー 兼 タックス・ポリシーリーダー EY税理士法人 パートナー

2人の娘の父。趣味はドライブ、スキー、クルージング。好きなお酒はワイン。

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