2024年2月13日
コネクテッドカーのビッグデータ収益化戦略

コネクテッドカーのビッグデータ収益化戦略

執筆者 高松 越百

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ストラテジー・アンド・トランザクション EYパルテノン アソシエートパートナー

25年以上に及ぶ企業幹部の経験を持つベテラン戦略コンサルタント。大の赤ワイン好き。ゴルフ愛好家。

2024年2月13日

自動車メーカーの投資拡大に伴い、コネクテッドカーは自動車の内部・外部の状況を把握・データ化し、毎時約20GBものデータを生み出す情報装置となっています。近年、このような大量のデータをさまざまなビジネスに活用しようとする動きが広がりつつあります。

要点

  • 自動車のセンシング技術などが進化し、膨大なデータが生まれる中でそれをビジネスに活用しようとする動きが広がっている。
  • データを活用した新たなビジネスの拡大により、データを活用するための情報インフラの整備も着実に進みつつある。
  • データ管理は企業にとって一層重要な課題であり、ビジネス・技術・規制などの動向を踏まえた一体的な戦略の立案が成功の鍵となる。

自動車のセンシング技術などが進化し、膨大なデータが生まれる中でそれをビジネスに活用しようとする動きが広がっています。

自動車メーカーのコネクテッドカー領域への年間投資額は2014年には約1憶米ドルでしたが、2019年には約33憶米ドルまで大きく増加しています1。投資の拡大に伴い、自動車の内部・外部の状況を把握し、それらをデータ化する技術は一層進化し、コネクテッドカーは毎時約20GBものデータを生み出す情報装置となっています2

データを活用した新たなビジネスの拡大

近年、このような大量のデータを自動車の制御に用いるだけでなく、自動車に関連するさまざまなビジネスに活用しようとする動きが広がりつつあります。顕著な例が自動車保険となり、保険加入者側は運転履歴データからリスクの低い運転をしているとみなされた場合、保険料を低く抑えることができます。また、事故が発生した場合にはそれが通信によって速やかに保険会社に伝わり、迅速な事故対応を受けやすくなるなどのメリットがあります。

また、中古車市場の分野でも、運転履歴の細かな把握が可能になることで自動車を売却する際の価値算定を最適化することができ、自動車の所有者は自動車に負担の少ない安全な運転を行っていたことなどが証明できた場合には、通常よりも高い価格で売却することが可能になります。

また、エンターテインメント分野でも、広告会社側は利用者属性を細かく把握することでターゲティング広告の効果を上げ、広告の単価を上昇させられる可能性があります。自動車ユーザー側はその恩恵として、音楽ストリーミングサービスを広告付きの無料サービスとして利用できる可能性があります。

データを活用するための情報インフラの整備も着実に進みつつある

コネクテッドカーから生じるデータを活用するビジネスが拡大する中で、それらを支える各種情報インフラの整備も進みつつあります。例えば、データの売買を行うためのデータ・マーケットプレイス・ビジネスについては自動車メーカーを中心にさまざまな企業が参入し、徐々に市場が拡大しつつあります。これによってサードパーティー企業がコネクテッドカーから得られるデータを基に新たなサービスを開発しようとする際のハードルが低下しています。

また、大手IT企業はコネクテッドカーから得られたデータを保存・処理するための各種クラウドサービスなどを充実させつつあります。車車間通信および路車間通信、地図情報との連携、自治体情報との連携など、さまざまな機能をリーズナブルな料金で提供しており、それらもコネクテッドカーのデータ活用を加速させる重要なファクターの1つとなっています。

データ管理は企業にとって一層重要な課題に

これまで述べてきたように、コネクテッドカーのビッグデータを活用したビジネスは拡大しつつあり、また、それらを支える技術の整備も着実に進みつつありますが、そこには機会と同時に大きな課題もあります。各企業は今後、各国の規制に沿いつつ、どのような個人情報を適切に管理していくかということが重要な課題になってくると思われます。

データ活用に関する各国の規制はそれぞれ異なっており、例えば、データ共有・連携の許諾について、米国カリフォルニア州ではオプトアウト式になっている一方で、日本・ドイツ・中国などはオプトイン式になっています。また、それ以外にも国際間における個人情報データの取り扱いについて、ドイツ・中国は他国よりも特に厳しい規制があります。

個人情報の漏洩や関連規制への抵触は、企業のレピュテーションを著しく低下させ、事業に深刻な影響を及ぼします。そのため、コネクテッドカーのビッグデータを活用したビジネスの拡大を志向する企業は今後、各国の規制の違いなどを十分に理解し、また、技術面で情報漏洩を防ぐための手だてを十分に設けることが、一層重要な課題になってくると考えられます。

ビジネス・技術・規制などの動向を踏まえた一体的な戦略の立案が成功の鍵に

コネクテッドカーから生じるビッグデータを活用するビジネスには多くの可能性が秘められていますが、そこでの事業を成功に導くためには、①どのようなビジネスモデルがあり得るか、②データ活用・個人情報保護のためにどのような技術を採用すべきか、③各国の個人情報保護関連規制にどのように対応すべきか、などが主要な論点になると考えられます。特に①~③の内容はいずれも数カ月程度で大きく様変わりしていることもあり、各社はデータ活用の最新のビジネスモデルや技術、規制などの情報を常にアップデートすることが非常に重要となります。

そして、各社はビジネス・技術・規制などの動向を踏まえた上で一体的な戦略を立案することが、コネクテッドカーのビッグデータを利用したビジネスを展開していく上で最も重要なポイントになると考えられます。
 

出典:

  1. EY Germany, Connected Mobility - Data Monetisation (30 Aug 2020), p.35
  2. EY Germany, Connected Mobility - Data Monetisation (30 Aug 2020), p.4

サマリー

自動車のセンシング技術などの進化により生まれる膨大なデータをビジネスに活用しようとする動きが広がっています。データ活用の情報インフラの整備も着実に進む一方、データ管理は企業にとって一層重要な課題となります。ビジネス・技術・規制などの動向を踏まえた一体的な戦略立案が成功の鍵となります。

この記事について

執筆者 高松 越百

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ストラテジー・アンド・トランザクション EYパルテノン アソシエートパートナー

25年以上に及ぶ企業幹部の経験を持つベテラン戦略コンサルタント。大の赤ワイン好き。ゴルフ愛好家。