連結(平成25年改正) 第1回:連結の範囲

公認会計士 中村 崇

はじめに

連結財務諸表の作成にあたり、連結財務諸表の概念や基本的な連結手続については「わかりやすい解説シリーズ「連結」」にて解説しました。
当解説シリーズでは、連結財務諸表を作成するにあたり、連結に含める子会社の範囲の決定、親子会社間の会計処理の統一、また、段階取得による支配の獲得や子会社株式の追加取得・売却などの「わかりやすい解説シリーズ」では取り扱わなかった連結手続など、実務において必要と思われるポイントを中心に解説していきます。 また、文中意見にかかわる部分は私見であることをあらかじめお断りしておきます。

1. 連結範囲の検討

連結財務諸表を作成するためには、資本連結や取引高の消去等の連結手続が必要となりますが、これらの連結手続を行う前に、どの会社を連結財務諸表の範囲に含めるかを検討する必要があります。
連結の範囲を決定するにあたっては、まず、対象企業が子会社に該当するかどうかを検討します。次に、全ての子会社を連結の範囲に含めることが原則ですが、連結グループとして重要性がないと考えられる子会社について、重要性の原則を適用し、連結の範囲外とするかどうかを検討します。

連結の範囲の検討フロー

2. 親会社と子会社

(1) 親会社と子会社の定義

企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」(以下、会計基準という。)では、親会社及び子会社を以下のとおり定義しています(会計基準第6項)。

<親会社と子会社の定義>

会社

定義

親会社

  • 他の企業の財務及び営業又は事業の方針を決定する機関(株主総会その他これに準ずる機関。以下「意思決定機関」という。)を支配している企業

子会社

  • 親会社の定義に記載されている、当該他の企業
  • 親会社及び子会社又は子会社が、他の企業の意思決定機関を支配している場合における当該他の企業(いわゆる「孫会社」である子会社の子会社も親会社の子会社となります。)

(2) 子会社の判定

子会社の判定は、当該企業の意思決定機関を「支配」しているかどうかがポイントとなり、実態を踏まえた実質的な判断が求められます。会計基準では、支配力基準に関する包括的かつ一般的な規定が設けられ、要件が定められています。
以下の場合には、財務上、営業上、事業上の関係からみて他の企業の意思決定機関を支配していないことが明らかであると認められる場合を除いて、他の企業の意思決定機関を「支配」していると判定され(会計基準第7項)、当該他の企業は子会社に該当します。

<子会社の判定>

他の企業の議決権の所有割合

他の企業を支配していると判定される場合

50%超(過半数)

  • 他の企業の議決権の過半数を自己の計算において所有

40%~50%

  • 他の企業の議決権の40%~50%を自己の計算において所有
    + 緊密者の議決権や役員関係などの一定の条件(※下記①~⑤のいずれかに該当する場合)

0%~40%未満

  • 他の企業の議決権の0%~40%未満を自己の計算において所有
    + 緊密者と合わせると他の企業の議決権の過半数を所有
    + 役員関係などの一定の条件(※下記②~⑤のいずれかに該当する場合)

(注1)議決権の所有割合

また、上記※に記載した、役員関係などの一定の条件とは、以下の①~⑤をいいます。議決権の所有割合と以下の条件を加味して、他の企業を「支配」しているかどうかを検討します。

他の企業との関係

一定の条件

① 緊密者、同意者の議決権

自己の計算において所有している議決権と、自己と出資、人事、資金、技術、取引等において緊密な関係があることにより自己の意思と同一の内容の議決権を行使すると認められる者(緊密者)及び自己の意思と同一の内容の議決権を行使することに同意している者(同意者)が所有している議決権とを合わせて、他の企業の議決権の過半数を占めている

② 役員、使用人関係

役員若しくは使用人である者、又はこれらであった者で自己が他の企業の財務及び営業又は事業の方針の決定に関して影響を与えることができる者が、当該他の企業の取締役会その他これに準ずる機関の構成員の過半数を占めている

③ 契約関係

他の企業の重要な財務及び営業又は事業の方針の決定を支配する契約等が存在する

④ 資金関係

他の企業の資金調達額(貸借対照表の負債の部に計上されているもの)の総額の過半について融資(債務の保証及び担保の提供を含む。)を行っている
(自己と出資、人事、資金、技術、取引等において緊密な関係のある者が行う融資の額を合わせて資金調達額の総額の過半となる場合を含む。)

⑤ その他事実関係

その他、他の企業の意思決定機関を支配していることが推測される事実が存在する

なお、ある企業に対して、当該企業を支配し親会社となるのは1社のみであり、2社が親会社となることはありません。例えばC社の議決権の50%をA社が保有し、残りの50%をB社が保有している場合、上記の①~⑤の条件等を勘案してどちらが親会社に該当するかを判定しますが、C社に対するA社およびB社の条件が同等の場合には、A、B社は共にC社の親会社には該当せず、C社は両社の関連会社になります。

3. 連結に含める子会社の範囲

親会社は、原則としてすべての子会社を連結の範囲に含めるとされていますが(会計基準第13項)、支配が一時的であると認められる企業や、これ以外の企業であって、連結することにより利害関係者の判断を著しく誤らせるおそれのある企業については、連結の範囲には含めません(会計基準第14項)。
また、資産、売上高等を考慮して、連結の範囲から除いても企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する合理的な判断を妨げない程度に重要性の乏しい子会社は、連結の範囲に含めないことができます(会計基準(注3))。

<連結に含める子会社の範囲>

原則

  • 全ての子会社を連結

例外(連結の範囲に含めない)

  • 支配が一時的であると認められる企業
  • 連結することにより利害関係者の判断を著しく誤らせるおそれのある企業

容認(連結の範囲に含めないことができる)

  • 重要性の乏しい小規模子会社

4. 重要性の判断基準

(1) 質的重要性と量的重要性

連結の範囲に関する重要性については、実務上、「連結の範囲及び持分法の適用範囲に関する重要性の原則の適用等に係る監査上の取扱い(監査・保証実務委員会報告第52号)」をもとに検討を行います。重要性の判断にあたっては質的重要性と量的重要性の両方の観点から検討する必要があります。

質的重要性のある会社

① 連結財務諸表提出会社の中・長期の経営戦略上の重要な子会社
② 連結財務諸表提出会社の一業務部門、例えば製造、販売、流通、財務等の業務の全部又は重要な一部を実質的に担っていると考えられる子会社
③ セグメント情報の開示に重要な影響を与える子会社
④ 多額な含み損失や発生の可能性の高い重要な偶発事象を有している子会社

量的重要性のある会社

  • 量的重要性のある会社か、連結の範囲から除いても企業集団の財政状態及び経営成績に関する合理的な判断を妨げない程度に重要性が乏しい子会社かどうかは、少なくとも、以下の4項目に与える影響をもって判断
     ① 資産基準
     ② 売上高基準
     ③ 利益基準
     ④ 利益剰余金基準
  • 支配が一時的な会社、連結の範囲に含めることが利害関係者の判断を著しく誤らせるおそれがある会社で連結の範囲に含めていない会社は、量的基準の算式には含めません(監査・保証実務委員会報告第52号「連結の範囲及び持分法の適用範囲に関する重要性の原則の適用等に係る監査上の取扱い」(以下、監査上の取扱いという。)第4項(1))。

(2) 量的基準

    4つの量的基準は以下の算式により算出します。

      ① 資産基準

      ①資産基準

      (原則として連結グループ間債権債務及び資産に含まれる未実現損益の消去後の金額)

      ② 売上高基準

      ②売上高基準

      (原則として連結グループ間の取引の消去後の金額)

      ③ 利益基準

      ③利益基準

      (原則として連結グループ間取引による資産に含まれる未実現損益消去後の金額)

      ④ 利益剰余金基準

      ④利益剰余金基準

      (原則として資産基準及び利益基準の適用に当たって消去された未実現損益修正後の金額)

      利益基準における連結財務諸表提出会社、連結子会社及び非連結子会社の当期純損益の額が事業の性質等から事業年度ごとに著しく変動する場合などは、当期純損益の額について最近5年間の平均を用いる等適宜な方法で差し支えないものとするとされています(監査上の取扱い第4項(6))。

      量的基準について、非連結子会社の割合が何割であれば重要性が低いと判断できる、といった一定の数値基準はないため、実質的な判断を行う必要があります。実務上は、社内規程等において一定の割合(例えば3%等)を決定し、上記の量的基準の算定式における非連結子会社の割合が、社内で定めた一定の割合を超えないかどうかを確認することで、連結範囲の妥当性を判断している会社が多いと考えられます。

      設例

      1. 各社の財務諸表数値

      1.各社の財務諸表数値

      (※1)個別数値は、監査上の取扱い第4項(3)の規定に従い、以下の通り、会社間取引を消去した後の金額としている。

      • 資産基準における総資産額の合計額は連結財務諸表提出会社、連結子会社及び非連結子会社間(以下「会社間」という。)における債権と債務及び資産に含まれる未実現損益の消去後の金額

      • 売上高基準における売上高の合計額は会社間の取引の消去後の金額

      • 利益基準における当期純損益の額の合計額は会社間の取引による資産に含まれる未実現損益の消去後における金額

      • 利益剰余金基準における利益剰余金の合計額は、資産基準及び利益基準の適用に当たって消去された未実現損益を修正した後の金額

      (※2)会社は従前より、資産基準、売上高基準、利益基準、利益剰余金のいずれにおいても、非連結子会社の割合が3%を超えないことと規定している。

      2. 連結の範囲の検討

      ① 資産基準

      • 非連結子会社の総資産額の合計額
        S3社 40,000,000 + S5社 30,000,000 =70,000,000

      • 連結財務諸表提出会社の総資産額及び連結子会社の総資産額の合計額
        P社 2,000,000,000 + S1社 500,000,000 + S2社 200,000,000 + S4社 20,000,000 =2,720,000,000

      • 非連結子会社割合
        70,000,000 ÷ 2,720,000,000 = 2.57% ⇒ 3%以下

      ② 売上高基準

      • 非連結子会社の売上高の合計額
        S3社 40,000,000 + S5社 50,000,000 =90,000,000

      • 連結財務諸表提出会社の売上高及び連結子会社の売上高の合計額
        P社 2,500,000,000 + S1社 600,000,000 + S2社 150,000,000 + S4社 125,000,000 =3,375,000,000

      • 非連結子会社割合
        90,000,000 ÷ 3,375,000,000 = 2.67% ⇒ 3%以下

      ③ 利益基準

      • 非連結子会社の当期純損益の額のうち持分に見合う額の合計額
        S3社 10,000,000×100% + S5社 300,000×50% =10,150,000

      • 連結財務諸表提出会社の当期純損益の額及び連結子会社の当期純損益の額のうち持分に見合う額の合計額
        P社 200,000,000 + S1社 50,000,000×80% + S2社 25,000,000×70% + S4社 35,000,000×75% =283,750,000

      • 非連結子会社割合
        10,150,000 ÷ 283,750,000 = 3.58% ⇒ 3%超(※3)

        (※3) 量的基準での判定の結果、会社の規定である3%を超過した。S3社の業績が近年伸びており、連結上の重要性が増していることから、S3社を当期より連結子会社とすることとした。

      S3社を連結の範囲とした後の再判定

      • 非連結子会社の当期純損益の額のうち持分に見合う額の合計額
        S5社 300,000×50% =150,000

      • 連結財務諸表提出会社の当期純損益の額及び連結子会社の当期純損益の額のうち持分に見合う額の合計額
        P社 200,000,000 + S1社 40,000,000 + S2社 17,500,000 + S3社 10,000,000 + S4社 26,250,000 =293,750,000

      • 非連結子会社割合
        150,000 ÷ 293,750,000 = 0.05% ⇒ 3%以下

      ④ 利益剰余金基準(S3社は③の判定の結果を受けて除いて計算することも考えられる)

      • 非連結子会社の利益剰余金のうち持分に見合う額の合計額
        S3社 16,000,000 + S5社 1,000,000 =17,000,000

      • 連結財務諸表提出会社の総資産額及び連結子会社の総資産額の合計額
        P社 600,000,000 + S1社 32,000,000 + S2社 70,000,000 + S4社 30,000,000 =732,000,000

      • 非連結子会社割合
        17,000,000 ÷ 732,000,000 = 2.32% ⇒ 3%以下

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