第1章
2021年:希望と可能性の年
世界経済の見通しは明るくなってきたものの、課題が待ち受けています。
昨今の低金利環境にIPO上場初日の高リターンが加わり、さらなるリターンを狙って株式市場に投資する個人投資家が増えています。2020年、多くのニューエコノミー企業とテクノロジー企業の株価は著しく上昇しました。しかし、今後のボラティリティの可能性に投資家は注意するはずです。市場不安の兆しがあれば、投資家は2020年の利益を確定しようと、直ちに株式を売却すると考えられます。そうなれば、市場の調整局面入りが近づくでしょう。
このような変化は長く続くか?
パンデミックによりほとんどの企業が運営方法を変えていますが、おそらくこうした変化の一部は長く続くでしょう。2021年も、引き続きスタッフの構成からアウトソーシングに至るまでコストを見直し、非効率な部分を減らして生き残りを維持し、資本を未来の機会への投資に向けられる状態を保つことになると考えられます。
たとえワクチンがあっても、リモートワークという広く浸透した働き方が一夜にしてなくなることはありません。オンラインショッピングや家族・友人とのビデオ通話と同様、人々は在宅勤務に慣れました。このことは、オフィススペースにかかる費用を気にする経営者にも、商業用不動産の価格回復を当てにする人たちにも課題を突き付けています。
マンハッタン中心部では現在、オフィススペースの14%が空室になっていますが、これは2008年以来、過去最高の空室率です。オフィスの和気あいあいとした雰囲気を懐かしむ声は多いものの、従業員がフルタイムでオフィス勤務に戻る可能性はますます低くなっています。ハイブリッドモデルが出現する可能性もありますが、全従業員にとって申し分のないバランスを取ることは難しいでしょう。
IPO準備会社は市場が調整局⾯に⼊る可能性に注意を払う必要があります。これは特に、2020年の市場の持ち直しで株価が⼤幅に上昇したIPO準備会社について⾔えることです。
リモートワークを可能にするテクノロジーのメリットが明らかになり、意思決定を目的とした出張を減らしてバーチャル環境でやりとりを行うことで、企業はコスト(と二酸化炭素排出量)を削減しています。IPOセクターだけを見ても、バーチャルロードショーによってより幅広い層の投資家にアクセスできるようになり、従来型のキャンペーンの実施に要する時間と資金が削減されました。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、企業が直⾯せざるを得ない最⼤の課題の1つであるものの、何が可能であるかも浮き彫りにしました。業績が好調で変化に柔軟に適応できる企業は、顧客のニーズに対応したスピードと展開力で、⾰新的かつ迅速に考える能⼒が⾃社に備わっていることを明確に⽰しています。
リーダーに何を期待すべきか?
世界中の企業が、ジョー・バイデン大統領率いる米国新政権に備えて準備を進めています。バイデン政権は、猛威を振るうパンデミック、党派の対立、外国政府や世界貿易機関などの公的機関との関係再構築といった数々の課題に直面しています。米国と中国の二大経済圏間の関係は今後、国際貿易と世界の資本市場に多大な影響を及ぼすことになるでしょう。
EUについて言えば、気候変動など主要な問題に関して米国との絆を復活させることをリーダーらが強く望んでいます。EUの1兆8,000億ユーロ(2兆2,000億米ドル)の新予算・復興基金案では、今後10年間で二酸化炭素排出量を55%削減することを目標としていました。これは、排出量を削減し、気候変動問題に取り組むという世界各国の企業の大きな意気込みを表しています。
全体的に見て2021年は、2020年に起きた「グレートリセット」を基盤に、社会と経済を成長させるための新たな方法を確立する機会となります。
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第2章
世界のIPO市場動向の主な内容
2020年第4四半期の堅調なIPO活動がレジリエンスを証明し、予想を覆しています。
結果から見える、困難な年の好調な締めくくり
- 2020年は市場がパンデミック前の水準に回復し、新たな高みに到達した。
- 2020年は対前年比でディール件数が19%、取引金額が29%増加した。
- 2020年10月は、過去20年間でディール件数が10月として最も多かった。
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サマリー
EYの最新の世界のIPO市場動向レポートの結果を見ると、IPO市場は昨年、予想以上にレジリエンスが高かったことが分かります。2020年を堅調に終えたことで、IPO市場は前年の勢いに乗ったまま2021年を迎えることができました。