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EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 IFRSデスク 公認会計士 大島 隼
主として金融業および石油ガス業の監査業務に従事。2019年よりIFRSデスクに所属し、IFRS導入支援業務、研修業務、執筆活動などに従事している。当法人 マネージャー。
2022年9月22日、国際会計基準審議会(IASB)は「セール・アンド・リースバック取引におけるリース負債(IFRS第16号の改訂)」(以下、本改訂)を公表しました。本改訂は、20年11月27日に公表した公開草案に対して集まったコメントを受けて、IASBにて審議を重ねて公表されたものです。
本稿では、本改訂の概要と考えられる影響等について解説します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。
本改訂の解説に入る前に、関連するIFRS解釈指針委員会(IFRS IC)が20年6月に公表した、本改訂に関連するアジェンダ決定「リース料が変動するセール・アンド・リースバック(IFRS第16号「リース」)」(以下、当該アジェンダ決定)について簡単に触れる必要があります。当該アジェンダ決定は、IFRS第15号において売却として会計処理するための要求事項を満たすセール・アンド・リースバック取引を行い、そのリース料が指数又はレートに応じて決まるものではない変動リース料を含む場合に、売手である借手がリースバック取引から生じる使用権資産をどのように測定し、その結果、取引日に認識する利得又は損失の金額をどのように決定すべきかという質問に対応するものです。
当該アジェンダ決定では、たとえリースバックのリース料のすべてが変動であり指数又はレートに応じて決まるものではない場合であっても、取引日において金融負債を認識することを明確にしています(<表1>参照)。このように、当該アジェンダ決定はそうしたセール・アンド・リースバック取引から生じる使用権資産及びリース負債の当初測定に関しては明確化したものの、事後測定については言及されていませんでした。
本改訂の趣旨は、そうしたセール・アンド・リースバック取引により認識した使用権資産及びリース負債の事後測定に関するアプローチを明確化するため、IFRS第16号のセール・アンド・リースバック取引に関する要求事項に狭い範囲の修正を加えるものです。
前記Ⅱで述べた通り、本改訂は当該アジェンダ決定の検討の中で識別されたIFRS第16号の要求事項の問題点に対応するためにIASBより公表されました。現行のリース負債の事後測定の要求事項は、指数又はレートに応じて決まるものではない変動リース料が含まれるリースバックにより生じるリース負債に対して適用することが難しく、また、条件変更やリース期間の変更におけるリース負債の再測定の際に、残存する使用権資産に係る損益が認識されてしまう可能性が指摘されていました。
そのような問題点に対応するため、本改訂によって、セール・アンド・リースバック取引から生じたリース負債の事後測定に関する新たな要求事項(IFRS第16号102A項)を追加し、保持する使用権資産に関係する利得又は損失の額を認識することがない方法により「リース料」又は「改訂後のリース料」を算定することが明確化されました。これにより、リースバックによるリース負債について事後的に条件変更やリース期間の変更があった際に、リース負債の事後測定の規定(IFRS第16号第36項から46項)を適用する場合にも、保持している使用権資産に係る利得を認識することがなくなります。従前では、そのような再測定の際に指数又はレートに応じて決まるものではない変動リース料を含めずにリース負債が再測定されてしまう結果、損益が発生してしまう余地がありました。
また、本改訂案の審議の過程では、そのようなリースバックによるリース負債の事後測定について、具体的な方法を規定することが提案されていましたが、公開草案に対するコメントを踏まえて、具体的な規定を定める提案は最終的な本改訂には含められていません。その代わりに、IFRS第16号に付属する強制力のない設例に、指数又はレートに応じて決まるものではない変動リース料を含むセール・アンド・リースバック取引に関する新たな設例(設例25)を本改訂によって追加しており、実務適用上のガイダンスとして参照することが期待されています。新たに追加された設例では、リースバックにおいて変動リース料について支払われた「リース料」の決定の方法として2つのアプローチが例示されていますが、そのうちの1つを<図1>にて解説しています。
本改訂は、24年1月1日以後開始する事業年度に適用され、適用においては、IFRS第16号を初めて適用した日より後に行ったセール・アンド・リースバック取引に対して遡(そ)及適用されます。例えば、19年4月1日からIFRS第16号を適用した企業は、本改訂を19年4月1日から後に行われたセール・アンド・リースバック取引に適用します。結果として、比較期間への遡及適用が要求されることになります。したがって、指数又はレートに応じて決まるものでない変動リース料を含むセール・アンド・リースバック取引を行っている場合には特に、本改訂の影響の検討を行うべきと考えられます。
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