EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY新日本有限責任監査法人 不動産セクター
公認会計士 中條 真宏
分譲(分割譲渡)とは、土地や建物を区分けして販売することで、主に宅地の造成や建物の建設を行って、それを販売する事業を不動産分譲業といいます。宅地建物取引業法では、「宅地若しくは建物の売買若しくは交換又は宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の代理若しくは媒介をする行為で業として行うもの」が宅地建物取引業とされており、不動産分譲業は宅地建物取引業に該当します。本稿では、戸建て住宅や集合住宅(マンション)などの住宅の土地造成、開発、分譲を行う業者を念頭に不動産分譲業として解説します。
不動産の分譲については、造成・建設工事が必要となるので、用地の取得から、物件の開発、販売、引渡しまで、マンションの場合で一般的に1~3年程度はかかるものとされています。このため、地価の上昇局面では付加価値を価格に転嫁しやすくなる一方で、地価の下落局面になると、高く仕入れた土地に建てた建物を相場が下がる中で販売することとなって、割高感が出て売れにくくなります。また、建設会社の人件費や建築資材価格の変動によって建設工事に係るコストが変動するリスクがあります。これらの不動産の価格変動リスクは、分譲業者が負うことになります。
不動産は高価であり、土地や建物の購入には、多額の資金が必要となります。そのため、不動産の購入資金を借入金によって調達することが多く、分譲事業会社(不動産会社)は一般的に借入金依存度が高くなっています。不動産の開発については、プロジェクトの規模によるものの比較的長い期間を要することから、その間の金利負担も大きくなります。また、不動産市況および金融市況によっては、借入金の返済や借換えが困難になる場面も生じ得ることから、資金管理が重要です。
不動産の取引、開発および分譲に関しても、宅地建物取引業法、国土利用計画法、都市計画法、建築基準法、土壌汚染対策法、住宅の品質確保の促進等に関する法律、建物の区分所有等に関する法律などの法律、各自治体が定めている条例等の規制を受けています。なお、不動産の分譲を行うには宅地建物取引業法に基づく宅地建物取引業の免許が必要となります。
住宅の購入にあたっては、購入資金が多額となることから、住宅ローンを利用することが多く、金利の情勢は購入者の購買活動に大きな影響を与えます。税制面からは、住宅ローン減税などの優遇措置を講ずることにより、住宅購入を促すような取り組みが行われます。また、建物取引には消費税等が課税されることから、過去の増税前には一定の住宅購入駆け込み需要が発生しました。
不動産会社は前述通り資金調達の面から借入金依存度が高くなる傾向があります。そのため、特に金利の上昇局面では財政状態を圧迫するなどの影響が生じます。また、住宅ローンの上昇などにより購入者の購買意欲が減退した場合には、販売活動に影響がおよびます。
さらに、近年は日本の不動産会社が海外での分譲業に進出することも増えています。この場合、為替相場の影響や、現地の金利情勢が分譲業の収支に影響を及ぼすことになります。
日本では、進学、就職、転勤などによる新生活の開始時期が年度末から年度初めに集中することから、分譲される不動産の引渡時期が2月や3月に集中する傾向があります。この季節性の特徴を踏まえて会社によっては、売上が第4四半期に集中することを注記している場合もあります。
不動産分譲業は住宅を造り続けて在庫を抱えているだけでは利益は生まれず資金回収もできません。常に、販売引渡しをする一方で、将来を見越して新たに開発用地を取得し、次に備えなければなりません。(1)に記載した通り、住宅の開発期間は長期となるため、不動産分譲業者は、たとえ将来、不動産価格が下落すると見越していたとしても、事業継続の観点からは、その時点の時価で開発用地を取得し開発に着手する必要があります。過去、幾度となく多くの不動産分譲業者が景気の波にのみ込まれてしまったのは、このようなリスクが内在していることによります。
不動産を分譲するには、まず売り物になる土地を仕入れなければなりません。事業の出発点として、いかに事業化に適した土地を取得するかが不動産分譲業の肝であり、情報収集して開発・分譲に適当な開発用地を発掘して購入することが重要です。適当な開発用地が見つかれば、その土地にどのような建物が建てられるのか、近隣の状況から、どのくらいの値段で売れるのかを検討して物件を企画します。続いて、当該企画に基づく収益・費用を概算で見積もることで、当該土地の購入にあたって支出可能な見込額が算定されます。この購入見込額について不動産分譲業者は意思決定を行い、売主と交渉または入札、コンペなどを経て土地売買契約を締結します。土地の引渡しは通常、代金の支払いと同時に行われます。
開発用地が取得できたら、当該土地の開発に取り掛かります。土地については、整地・造成などの準備作業が必要となります。更地のまま分譲地として売り出すこともありますし、土地に戸建住宅やマンションを建設して販売することもあります。建物の建設については、自社で行う場合もありますが、多くの不動産分譲業者は、土地の取得、企画、販売は自社で行って、建物の建設については建設会社に依頼するのが一般的です。
不動産分譲業の販売活動にあたっては、インターネットやSNS、チラシなど各媒体を用いて広告を出し、モデルルームを設置して購入見込客を呼び込み販売を行う手法が一般的にとられています。不動産は比較的高額な買物となるため、販売および引渡に向けて分譲業者は、購入希望者から手付金(申込金)、中間金、最終金のように段階的に資金を収受することで、購入希望者の購入資金の確保状況と購入意思を確認していきます。なお、契約時に購入希望者が支払う手付金に解約手付の性格も含まれていることから、買主都合でその後に契約を解除するときは、手付金を放棄しなければなりません。一方、売主都合で契約を解除する場合は、いわゆる「手付の倍返し」が必要となります。
販売活動を分譲業者の資金繰りの面から見てみると、前述通り分譲開発には長期間にわたって多額な資金を要していることから、早期に投資資金を回収したいとの思いがあります。そのため、特にマンション分譲では、青田売りといわれるような建設中段階で販売活動を開始することが見受けられます。一方で、早期の資金回収にそこまで拘らない場合には、販売時期を第一期、第二期のように複数回に分けて、都度販売価格を設定することでプロジェクト収支の最大化を図るような取り組みもあります。
不動産分譲業者の販売方法は、製販分離方式と製販一体方式に大別されます。土地の仕入力、物件の企画力と資金力を生かして用地取得から物件の企画・開発のみに特化して、販売は販売代理・仲介専門の子会社や外部の販売業者に委託し、契約締結または引渡しに対して販売手数料を支払うことを「製販分離方式」、販売までを全て自社で行う場合を「製販一体方式」といいます。
購入者が既に支払った手付金などを除いた残代金の販売業者への支払と引き換えに、分譲物件の引渡しは行われます。購入者が住宅ローンを利用する場合には、ローン契約に基づいて金融機関等から引渡日にローン実行額が支払われます。
販売用不動産の取得価額には、一般的に、土地代金、仲介手数料、不動産取得税、登記移転の場合の登録免許税、造成費用、建物の建築費用などが含まれます。この他、不動産開発事業を行う場合の、いわゆる、ひも付き融資にかかる利子については、特定のプロジェクトを遂行するための重要な原価要素の性格が強いものと考えられることから、「不動産開発事業を行う場合の支払利子の監査上の取扱いについて」(日本公認会計士協会 業種別監査研究部会建設業部会・不動産業部会)において、一定の条件を満たす場合には、利子を原価算入することが監査上妥当と認められるとされています。ただし、実務上は、要件判定の煩雑性から、実際に利子を原価算入しているケースは少ないと考えられます。
また、取得価額は一般的に個別の物件単位、または一連の販売区画(いわゆる「団地」)ごとに集計します。
販売用不動産は個別性の強い棚卸資産であることから、一般的に個別の物件単位または団地単位ごとに個別法による受払いが行われ、プロジェクトごとに物件管理番号を付して、プロジェクト開始から完了の期間にわたって継続的な原価の集計・管理が行われていきます。この際に、プロジェクトに関連した費用が確実に計上・管理されて計上漏れが発生しないこと、また、プロジェクト間での原価の付け替えが行われないような管理体制の構築が重要です。
販売用不動産の期末評価にあたっては、企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」が適用されます。期末における正味売却価額が取得原価よりも下落している場合には、収益性が低下しているとして、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額とするとともに、取得原価と当該正味売却価額との差額は当期の費用として処理することとされています。
また、販売用不動産の正味売却価額の算定に当たっては、監査・保証実務委員会報告第69号「販売用不動産等の評価に関する監査上の取扱い」で、「3(1)開発を行わない不動産又は開発が完了した不動産の評価」、「3(2)開発後販売する不動産の評価」がそれぞれ示されています。開発後販売する不動産の評価に当たっては、開発計画の実現可能性についての判断が求められています。
不動産の販売に当たっては、新聞への折り込みチラシの配布、パンフレットの街頭配布、ポストへの投函、分譲物件の看板の設置、インターネットやSNSでの広告などによって潜在顧客に周知し、モデルルームまたは現地販売事務所を設けて、販売員を配置して説明を行い、不動産売買契約に至ります。
この販売活動において発生する特定物件に紐づく広告宣伝費用やモデルルーム建設費、販売担当者の人件費などの各費用について、会計上は、この費用を発生時に費用処理すべきか、または、引渡し時まで費用処理すべきか、という論点が存在します。
新築マンション分譲や建売分譲においては、多様な広告宣伝活動が行われますが、その支出は特定のプロジェクトとの関連性が明確なものが多く、かつ、販売価格に占める割合は大きく重要性が高くなります。これらの会計処理について、広告を掲載し、広告というサービスを費消した時点で販売費として費用計上する方法が考えられます。しかしながら、大型物件の青田売りを行う場合には、販売開始から建物の竣工引渡しまで相当の期間を要するため、多額の広告宣伝費用が収益に先行して発生し、広告の成果として引渡し時に計上される収益と計上時期が対応しないという問題が生じます。そのため、特定の物件に関連する広告宣伝費について、a. 販売収益に関係なくサービス費消時に費用処理する方法に加えて、b. 販売収益に対応させて引渡し時まで繰延処理する方法が、会計慣行として行われています。
会計原則や他の業種の会計慣行から、広告等の宣伝費は広告サービスの費消時に費用処理することが原則と考えられます。「原価計算基準」(企業会計審議会)でも、販売費は原価を構成するものではなく、期間費用として処理するものとされています。一般的に、広告宣伝の効果は、どのメディアに、いくら広告費をかけたからモノが売れたという明確な説明が困難と考えられます。従って、この方法には、繰延処理をしたところで、実際にどの収益に対して、どの範囲の広告宣伝費を対応させるかが不明であるという考えが根底にあると考えられます。
不動産分譲業における広告宣伝費のうち、特定のプロジェクトに直接関連した費用であることが明確な新聞・チラシ・インターネット等の広告代やパンフレット代など、費用と収益の計上期間を対応させることがより適切な経営成績を表した損益計算書となることを根拠として、実務上合理的な方法として認められているものです。一方で、会社のCMなど特定のプロジェクトとの直接的な関連性がない費用については、発生時の費用として処理することが一般的と考えられます。
モデルルームや販売事務所に関係する支出としては次のようなものが挙げられます。これらの支出は、原則として発生時の期間費用として計上されますが、特定のプロジェクトとの関連性が明確である場合には、直接プロジェクトに関連する宣伝費として会計処理を行うことが考えられます。
土地建物の賃借期間に応じて、販売費として計上することとなります。
モデルルームの建物、設備および備品等の支出の時点で、販売費として計上することとなります。ただし、1年以上の使用貸借が予定されている場合には、一度、固定資産として計上し、使用期間にわたり、減価償却費として費用配分することが考えられます。この際には、税務上の耐用年数との差異について留意が必要です。
モデルルーム等での販売要員の人件費は、製販分離方式の場合には、販売会社が負担することとなります。不動産分譲業者は、販売委託料手数料を販売の成否に応じて支払うこととなります。
販売活動の結果、不動産売買契約が成立すると、不動産販売会社は通常、契約金として手付金(宅地建物取引業者の場合上限は20%)を受領します。手付金は、物件の売渡代金の一部であることから、物件の引渡しまでは前受金などの勘定科目に計上されることが一般的です。
不動産分譲による売上計上は、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、「収益認識基準」という。)および企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、「収益認識適用指針」という。)に基づいて、約束した資産を顧客が支配獲得した時あるいは獲得するにつれて収益を認識することとされています。不動産分譲の場合には、物件の引渡し時点で売買代金の受領と所有権移転登記が行われることからも、当該時点で売上計上すると考えられます。
不動産は、物が動かず、引渡しが外形的に確認できないため、登記簿謄本で移転登記の事実を確認したり、物件や鍵の受領証を顧客から入手したりするなど、売上計上の根拠となる証憑を整理するなどの客観性を確保することが重要です。また、日本では不動産の引渡しは年度末である3月付近に集中し、かつ、不動産取引は1件当たりの金額が多額となることから、3月決算の会社においては、特に期末日前後の売上の計上タイミング(期間帰属)に注意が必要です。
取引価格の算定にあたっては顧客との売買契約金額が基礎となりますが、顧客に対する値引きが行われた場合には収益認識基準および収益認識適用指針に従って取引価格を算定します。
契約書に記載する購入代価を直接控除する現金値引きが行われた場合には、値引後の金額を取引価格として会計処理すると考えられます。しかし、家具やオプション工事の提供など、顧客との売買原契約の締結を前提として、顧客が追加的な財又はサービスを取得するオプションであって、通常の値引きの範囲を超える多額の値引きなど重要な権利を顧客へ提供する場合で、これらの提供が通常の値引きの範囲を超える多額の値引きを顧客へ提供すると認められるときには、別の履行義務を識別したうえで、各履行義務に取引価格を配分して収益を認識します。
不動産が販売され売上計上された時点で、棚卸資産に計上されていた販売用不動産は、不動産販売収益に対応する不動産販売原価として費用化されます。分譲不動産の原価配分については、明確な会計基準はなく、面積比例または売価比例等の合理的な基準により原価配分されることになると考えられます。また、これらの合理的な基準は毎期継続して適用することが求められます。
一般的に、土地の取得前、建築工事依頼前、販売開始前などの時点で収支計画が作成・見直され、実績との比較分析が行われます。販売用不動産の評価は今後の販売見込額、原価発生見込額や販売経費の発生見込額を勘案して行われるため、市況の変化による販売見込額の変動、工事の遅れやそれに伴う販売の遅れは原価や経費の増加を招き、評価減につながりますので注意が必要です。適時な見直しのためには、管理部門がプロジェクトチームと綿密なコミュニケーションをとり、これらの変更の事実だけでなく、変更の可能性について、適時に情報を収集する仕組みができているかが重要です。
不動産は動かすことができず、物の引渡しを外見的に確認することができないので、実在しない土地や、売主に所有権がない土地を仕入れてしまうというリスクがないとも限りません。そのため、仕入れ前に漏れなく登記内容を確認する仕組み、仕入れ後に適時に登記を行い、それを維持するための仕組みの整備、運用状況に留意する必要があります。
また、物件の採算管理を行う上で、実際の現場の状況が事業収支に反映されないリスクや、事業収支計画のスケジュール通りに造成・建築、販売できないリスク、場所の利便性などを考えると売出価格が実勢と乖離(かいり)してしまっているリスクなど、適時に情報を収集する仕組みができているか、管理部門がプロジェクトチームと綿密なコミュニケーションをとり、これらのリスクについて、対応できているかを確認することが重要です。
そのほか、原価の付替えや計上漏れのリスクなどが発生することが考えられます。
不動産分譲業は、個性のある物件を、非定型的な契約により販売する取引で、まったく同じ取引を反復して行うことが少ないため、一般的にシステム化がしにくい取引であると考えられます。また、原価計算においても、一般的にプロジェクト件数が少なく、プロジェクトごとの個別原価計算が行われるため、複雑なITシステムを用いた管理は必要としない場合が多いと考えられます。
不動産取得時には、売買契約書作成にあたって印紙税が、不動産の取得にあたって不動産取得税が、所有権移転登記を行う場合には登録免許税が、それぞれ課税されます。
売買契約の内容にもよりますが、通常、不動産売買時に固定資産税および都市計画税の負担額の精算も行われます。さらに、土地の売買には消費税および地方消費税(以下、消費税等)は課税されませんが、建物の売買や造成工事、建築工事については消費税等の課税取引となります。また、造成工事や建築工事などの工事請負契約書には印紙税が課せられます。
不動産の保有中は、毎年、固定資産税および都市計画税が課税されます。不動産売却時には、売買契約書作成にあたって印紙税が課税されます。不動産の売却益については、課税所得に含まれ法人税等が課税されます。消費税等については、売主が消費税の課税事業者であれば、買主から預かった建物部分に係る消費税等を納付する義務があります。
不動産業