OECD/G20包摂的枠組み、BEPS2.0プロジェクト第2の柱GloBEルールの下でのセーフハーバーと罰則免除に関する文書を公表

  • OECDは、OECD/G20包摂的枠組みの承認を得た、セーフハーバーおよび罰則免除に関する指針を公表した。
  • 同指針には、国別報告書に基づく暫定セーフハーバー、簡便計算に基づく恒久的セーフハーバーの策定を目的とする枠組み、暫定的罰則免除制度に関する共通の理解が盛り込まれている。
  • 包摂的枠組みは他のセーフハーバーや簡素化も今後策定できるかを引き続き検討する。

エグゼクティブサマリー

経済協力開発機構(OECD)は2022年12月20日、税源浸食・利益移転(BEPS:Base Erosion and Profit Shifting)に関するOECD/G20包摂的枠組みの承認を得た、BEPSプロジェクト2.0第2の柱グローバル税源浸食防止(GloBE:Global Anti-Base Erosion)ルールの下でのセーフハーバーと罰則免除に関する指針(文書)を公表しました。今回の指針は、先に行われたGloBE実施枠組み(GloBE Implementation Framework)に関するパブリックコンサルテーションを受けて公表されたものであり、利害関係者らはGloBEルールの複雑性について懸念を提起していたほか、セーフハーバーや簡素化を要求していました。

本文書には、国別報告書(CbCR:Country-by-Country Reporting)に基づく暫定セーフハーバーについて合意された条件が盛り込まれています。同セーフハーバーにより、一定の低リスク国・地域での多国籍企業(MNE:multinational enterprise)の事業についてGloBEルールに基づくGloBE実効税率(ETR:Effective Tax Rate)を計算する義務が当面は実質免除されます。本文書にはまた、所得および税の簡便計算に基づく恒久的セーフハーバーの策定を目的とする枠組みも盛り込まれています。さらには、GloBEルールの適用開始から数年の間認められる暫定的罰則免除制度に関する包摂的枠組みメンバー国・地域間の共通の理解も盛り込まれています。同制度により各国・地域は、多国籍企業がGloBEルールの適切な適用を確保すべく相当の措置を講じた場合には、罰則または制裁の適用の正当性を慎重に検討することが求められます。

本文書はまた、包摂的枠組みが他のセーフハーバーや簡素化も今後策定できるかを引き続き検討すると言及し、とりわけ、適格国内ミニマムトップアップ税(QDMTT:Qualified Domestic Minimum Top-up Tax)を採用している国・地域にて営業する多国籍企業にコンプライアンス上の簡素化措置を認めるというQDMTTセーフハーバーに関する現在進行中の作業を取り上げています。

OECDは同日、第2の柱の実施策に関連する2件のパブリック・コンサルテーション・ドキュメント、すなわちGloBE情報申告書(GloBE Information Return)に関するドキュメントとGloBEルールの税の確実性(tax certainty)に関するドキュメントもそれぞれ公表しました。

詳細解説

背景

2021年12月20日付のGloBEモデルルール1および2022年3月14日付の解説(コメンタリー)2の公表を経て、包摂的枠組みはGloBE実施枠組みについて行った作業に関してパブリックコンサルテーションを実施しました。全般的に利害関係者らは、GloBEルールの下求められる計算および調整の複雑性について懸念を提起し、コンプライアンスおよび事務に伴う負担の軽減と税の確実性改善を目的とする多国籍企業のためのセーフハーバーや簡素化の導入を要求しました。OECDに提出したEYの意見書はこちら(https://globaltaxnews.ey.com/news/2022-5424-ey-submits-comment-letter-on-oecd-public-consultation-on-the-globe-implementation-framework-under-pillar-two)に掲載しています。

2022年4月25日のパブリックコンサルテーション会議中、OECD事務局は主な事項について寄せられた意見の概要を示しました3。セーフハーバーについてOECD事務局は、CbCRのデータに基づくセーフハーバーと、QDMTTを採用している国・地域についてはGloBE上の実効税率の計算が不要になる仕組みを要求する意見が多くの利害関係者から寄せられたと指摘しました。

セーフハーバーと罰則免除

OECDは2022年12月20日、包摂的枠組みの承認を得たGloBEルールの下でのセーフハーバーと罰則免除に関する指針を公表しました。同文書は次の項目を説明しています:

  • 一定の低リスク国・地域での多国籍企業の事業をGloBEモデルルール上の計算の対象から当面実質除外するCbCRに基づく暫定セーフハーバーの設計(第1章)
  • 簡便計算に基づく恒久的セーフハーバーの策定を目的とする枠組み。今後同枠組みはさらに手が加えられた上で、包摂的枠組みの承認が必要な行政指針(Administrative Guidance)に盛り込まれ公表される予定である(第2章)
  • GloBEルールの適用開始から数年の間「ソフトランディング(軟着陸)」を可能にする暫定的罰則免除制度(第3章)

本文書はまた、包摂的枠組みが他のセーフハーバーや簡素化も今後策定できるかを引き続き検討すると言及しており、例えば、特定の国・地域の国内法の下求められるQDMTTの計算に加えてGloBE上の計算を多国籍企業が行う必要を取り除くQDMTTセーフハーバーに関する現在進行中の作業も取り上げられています。本文書によると、包摂的枠組みがそうしたセーフハーバーをQDMTTに関する行政指針の中で検討する見通しです。

CbCRに基づく暫定セーフハーバー

CbCRに基づく暫定セーフハーバーは、多国籍企業が構成会社(Constituent Entities)を有する国・地域について国別報告書に基づき次のうちいずれか一つを満たすと証明できるときに、当該国・地域について詳細なGloBEルール上の計算を行うことを免除するという一時的な措置です:

  • デミニマス(僅少)閾値を下回る収益および所得。この判定は、国別報告書に記載されている当年の収益合計と税引前損益のみを判定の基準とする点を除き、GloBEルールに盛り込まれているデミニマス除外と同じような仕組みである(他方GloBEルールの規定では、当年と前2年の平均を算出して判定する)。
  • 所定の率以上の実効税率。所定の率は、2023年または2024年に開始する会計年度については15%、2025年に開始する会計年度は16%、2026年に開始する会計年度は17%。実効税率の算出に際しては、多国籍企業は当該国・地域の簡便対象税額(Simplified Covered Taxes)を自己の国別報告書に記載されている当該国・地域の税引前損益で除す必要がある。簡便対象税額は、当該多国籍企業の財務諸表に記載されている当該国・地域の法人税額から、対象税額に該当しない税額と不確実な税務ポジションを消去した額と定義される。簡便対象税額は、被支配外国法人の税および恒久的施設に関係する税の配分や評価調整額および会計上の認識調整額の消去、税額控除の発生および使用に関する繰延税金費用の消去、最低税率15%での税の再計算などの調整を必要としないため、簡便対象税額の定義はGloBEルールに基づく定義と異なる。
  • 通常利益を控除した後の超過利益が無い。この判定に際して多国籍企業は、国別報告書に記載されている税引前損益からGloBEルールに準拠するその国・地域の実体ベース所得控除(Substance-based Income Exclusion)を差し引いて通常利益を算出する。

以上の判定基準のうち一つでも満たされれば、当該会計年度における当該国・地域のトップアップ税はゼロとみなされます。また、GloBEモデルルールの9.1.1条、9.1.2条および9.1.3条の経過措置ルールにて言及されている経過期間は延長され、CbCRに基づく暫定セーフハーバーが当該国・地域について適用されなくなるまでGloBE損失に係る選択(GloBE Loss Election)を先送りできます。

本文書は、以下のものを含めこの暫定セーフハーバーの適用要件をいくつか定めています:

  • 2026年12月31日以前に開始する会計年度に当たる経過期間に限定される(ただし2028年6月30日より後に終了する会計年度は含まれない)。よって12月決算の多国籍企業については、この経過措置を適用できる期間は2024年度、2025年度、および2026年度になる。
  • 多国籍企業グループが適格財務諸表(Qualified Financial Statements)を用いて国別報告書を作成している場合に限り適用される。なお適格財務諸表とは次のいずれかのことをいう:(i)最終親会社の連結財務諸表の作成に用いられる決算書(GloBEモデルルール3.1.1条の規定を反映)、(ii)各構成会社の個別財務諸表(ただし、許容可能な財務会計基準(Acceptable Financial Accounting Standard)またはその他所定の財務会計基準(Authorized Financial Accounting Standard)に従って作成されている場合に限る。また、当該の財務諸表に記載されている情報がその会計基準に基づいて扱われており、かつ信頼できるとき)、(iii)単に規模または重要性に起因して当該多国籍企業グループの連結財務諸表に項目ごとに含まれていない構成会社の場合は、当該多国籍企業グループの国別報告書の作成に使用される当該構成会社の財務諸表。
  • 多国籍企業グループがGloBEルール適用対象年度において当該国・地域についてCbCRに基づく暫定セーフハーバーを適用しなかった場合においては、当該多国籍企業グループは翌年度にその国・地域について本セーフハーバーを適用できないという、「一度選択制」に従う。
  • セーフハーバーを利用するには、多国籍企業グループは、GloBE情報申告書の申告規定のうちCbCRに基づく暫定セーフハーバーに特に関係のある規定を順守する必要がある。

本文書は、ジョイントベンチャーやタックスニュートラルな最終親会社および投資会社、それらの構成会社所有者に関するルールを含め、一定の会社およびグループの取り扱いについて特別ルールを定めています。また、国別報告書の利益に反映されている5,000万ユーロを超える正味評価損(すなわちポートフォリオ・シェアホールディング以外の所有持分の公正価値の変動)の除外を求める特別ルールも定められています。本文書は、次に掲げる主体等をCbCRに基づく暫定セーフハーバーの適用から除外しています:

  • 無国籍構成会社
  • 単一の適格国別報告書に当該合算グループの情報が含まれていない多数親会社多国籍企業グループ
  • 適格配当ベース課税制度の適用を選択した構成会社のある国・地域
恒久的セーフハーバー

本文書は、簡便計算に基づく恒久的セーフハーバーの策定を目的とする枠組みを示しています。このセーフハーバーは、多国籍企業グループがGloBEルールに基づくデミニマス、通常利益、または実効税率の判定基準を満たすか否かを判定する際に、簡便な所得・収益・税の計算を用いることを認めるというものです。認められる簡便な計算は行政指針(Administrative Guidance)にて説明される予定です。簡便な計算のセーフハーバーによる恩恵を受けるには、多国籍企業グループは本セーフハーバーに関する行政指針の中で合意が形成される予定の申告規定を順守することが必要になる見通しです。

本文書には、重要でない構成会社(NMCE、すなわち、単に規模または重要性を根拠に所与の会計年度における連結財務諸表の範囲から除外された子会社およびその恒久的施設)の取り扱いに適用される簡便計算のセーフハーバーの例が示されています。簡便計算は、関係する国別報告規則に定められている定義を用いて、NMCEについて入手可能な財務諸表を基に構成会社ごとに行うことになる予定です。OECDのCbCRモデルルールは、進行中の2020年レビューの一環として見直しが進められているため、包摂的枠組みは当該モデルルールの変更を注視し、変更が加えられてもNMCEの簡便計算によりGloBEルールの信頼性が損なわれかねない問題が生じないよう徹底すると本文書には明記されています。

本文書によると、恒久的セーフハーバーはCbCRに基づく暫定セーフハーバーに加えて適用可能になる見通しです。

罰則免除

罰則免除は、GloBEルールが施行されて最初の数年の間多国籍企業グループに暫定的免除を認める設計になっています。罰則免除は、CbCRに基づく暫定セーフハーバーと同じ経過期間にわたり適用される見通しです(すなわち、2026年12月31日以前に開始する会計年度。ただし、2028年6月30日より後に終了する会計年度を含まない)。

罰則免除に関する共通の理解の下では、多国籍企業がGloBEルールの適切な適用を確保すべく「相当の措置」を講じたと税務当局が考える場合にはいかなる罰則または制裁も科すべきではないとされています。本文書において「相当の措置」の定義は示されておらず、各国・地域の既存のルールと慣行に照らして解釈する必要があります。多国籍企業が相応の措置を講じたという基準を満たすか否かは、その事案の事実と状況を基に税務当局が判定しなければなりません。また本文書によると、本暫定的罰則免除は租税回避、不正、または濫用の事案には適用されない見通しです。

今後の予定

行政指針が順次公表される予定で、指針第1段は2023年初めに公表される可能性があります。QDMTTセーフハーバーは、QDMTTに関する行政指針の中で包摂的枠組みが検討する予定です。包摂的枠組みはまた、他のセーフハーバーや簡素化も策定できるかを引き続き検討する予定です。この点に関しては、2022年12月20日に公表されたGloBE情報申告書に関するパブリック・コンサルテーション・ドキュメントが恒久的セーフハーバーの一部として策定される得る所得または税の簡便な計算について利害関係者の意見を募集しています。

今後の影響

本文書にて説明されているセーフハーバーおよび罰則免除に関する共通の理解の狙いは、GloBEルールの適用後最初の数年における複雑性の軽減と企業のコンプライアンス上の負担軽減にあります。本文書にはGloBEルールの運用に関係する情報が示されており、注意深く点検すべきグローバルミニマム課税制度の本質的な内容になっています。さらに、その他のセーフハーバーの策定を含め、包摂的枠組みによってなお検討されている分野も本文書はいくつか明らかにしており、この分野における動きを注視することが大切になるでしょう。

本文書は、グローバルミニマム課税ルールを国内の税制に組み込む際に政府によって使用されることが意図されています。欧州連合においては、2022年12月15日に正式に採択されたミニマム課税指令(Minimum Tax Directive)4が、前文にてセーフハーバーについて具体的に言及しています。ルールの法制化は国・地域によって異なる可能性が十分にあるため、企業は関係のある国・地域でのルールの実施を細心の注意を払って見守る必要があります。

企業においては、自己の国別報告書を点検し、それらがCbCRに基づく暫定セーフハーバーに使用できる要件を満たすか否かを判断することが重要です。同時に、CbCRに基づく暫定セーフハーバーは一時的なものである点、またその適用は所定の経過的実効税率基準を満たす国・地域に限られる点に鑑みると、自己の税務ポジションならびにデータおよびコンプライアンスに関する手順・仕組みに対するグローバルミニマム課税ルールの考えられる影響を分析することが企業にとってはやはり不可欠です。企業においてはまた、OECDがGloBE情報申告書やGloBEにおける税の確実性について開始したパブリックコンサルテーションへの参加を含め、OECDや政策当局と国内および多国間レベルで連携することも検討すべきでしょう。


巻末注

  1. 2021年12月22日付EY Global Tax Alert「OECD releases Model Rules on Pillar Two Global Minimum Tax: Detailed review」、2022年1月7日付EY Japan税務アラート「OECD、第2の柱(グローバルミニマム課税)に関するモデルルールを公表 前編」、2022年1月26日付EY Japan税務アラート「OECD、第2の柱(グローバルミニマム課税)に関するモデルルールを公表 後編」をご参照ください。
  2. 2022年3月21日付EY Global Tax Alert「OECD releases Commentary and illustrative examples on Pillar Two Model Rules」、2022年4月12日付EY Japan税務アラート「OECD、第2の柱のモデルルールに関するコメンタリーと計算例を公表(前編)」、2022年4月15日付EY Japan税務アラート「OECD、第2の柱のモデルルールに関するコメンタリーと計算例を公表(後編)」をご参照ください。
  3. 2022年4月29日付EY Global Tax Alert「OECD holds public consultation meeting on Implementation Framework for Pillar Two GloBE Rules」、2022年5月17日付EY Japan税務アラート「OECD、「第2の柱GloBEルール」の実行フレームワークに関するパブリックコンサルテーションを開催」をご参照ください。
  4. 2022年12月15日付EY Global Tax Alert「EU Member States unanimously adopt Directive implementing Pillar Two Global Minimum Tax rules(EU加盟国、第2の柱グローバルミニマム課税ルールを導入する指令を全会一致で採択)」をご参照ください。

お問い合わせ先

角田 伸広 パートナー

須藤 一郎 パートナー

関谷 浩一 パートナー

西村 淳 パートナー

久保山 直 アソシエートパートナー

荒木 知 ディレクター

大堀 秀樹 ディレクター

高垣 勝彦 シニアマネージャー

野々村 昌樹 シニアマネージャー

加藤 広紀 マネージャー

※所属・役職は記事公開当時のものです