2022年第1四半期のIPO:方向転換が必要な時期をどのように見極めるか

執筆者 Paul Go

Asia-Pacific EY Private Assurance Leader

Leads Chinese and multinational companies in client servicing domain. Heads Hong Kong real estate, hospitality and construction sector audit group.

3 分 2022年7月8日

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世界のIPO市場は 2022年第1四半期(1月~3月)に大きく減速しました。

要点
  • 2022年第1四半期の世界全体のIPOは前年比で件数が37%、調達額は51%減少した。
  • これは、21年ぶりに過去最高を更新した2022年1月を含めた上での結果である。
  • メガIPO(調達額10億米ドル以上の大型案件)により、Asia-Pacific(アジア・パシフィック)が世界のIPO調達額の78%を占めた。

世界のIPO活動は、2021年に過去最高レベルの活況を呈した後で、市場条件が不安定になったため、2022年第1四半期に大きく減速しました。2022年1月には、2021年第4四半期の活況が続き、調達額が21年ぶりに過去最高を更新するという力強いスタートとなりました。しかし、第1四半期後半に入ると、世界の株式市場が下落したため、IPO市場は活況から逆方向へと劇的に変化をし、IPO活動全体が大きく減速する結果となりました。世界のIPO市場では2022年第1四半期に、321件のIPOが544億米ドルを調達しましたが、これは前年比でそれぞれ37%と51%の減少となりました。 

このようにIPO活動が突然暗転したのは、新たに発生した問題、継続している問題、どちらも含む多様な問題が原因になっていると考えられます。具体的には、地政学的緊張の高まり、不安定な株式市場、直近のIPOで過大評価された株価の調整、商品(コモディティ)やエネルギー価格の高騰の懸念、インフレの影響と金利引き上げの可能性、といった問題が含まれます。またこれに加えて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の再拡大のリスクが、引き続き世界経済の回復にブレーキをかけています。

IPO活動の世界的な大減速と並んで、国境をまたぐIPO、ユニコーン企業のIPO、メガIPO、SPAC(特別買収目的会社)を活用したIPOも大幅に減少しました。また、市場の不確実性および不安定な市場の動きによって、多くの企業がIPOによる株式上場を延期しました。

エリア別のIPOパフォーマンス概要

2022年第1四半期のIPO市場を各エリア別に見ると、まずAmericas(北・中・南米)では37件のIPOが24億米ドルを調達しました。これは、前年比で件数が72%、調達額が95%の減少となりました。Asia-Pacificでは、前年比16%減の188件のIPOが、前年比で18%増となる427億米ドルを調達しました。EMEIA(欧州、中東、インド、アフリカ)では、96件のIPOが、93億米ドルを調達し、前年比でそれぞれ38%と68%の減少となりました。

セクター別順位に変動

第1四半期において、経済環境と市況の変化により、セクター別のパフォーマンスに若干の変化が見られました。テクノロジーセクターと素材セクターが同数の58件のIPOで件数の首位に立ち、それぞれ99億米ドルと59億米ドルが調達されました。次に製造業で57件のIPOが実施され、50億米ドルが調達されました。テクノロジーセクターは(2020年第3四半期より)7四半期連続で、件数では首位を守りましたが、調達額では2020年第2四半期以来7四半期連続で守ってきた首位の座を、今回は逃すこととなり2位となりました。 

第1四半期において、エネルギーセクターでは15件のIPOが122億米ドルを調達し、首位に躍り出ました。これは、第1四半期に韓国の証券取引所に上場したエネルギー企業が第1四半期最高額の資金を調達したことによるものです。一方、合計6件のIPOが86億米ドルを調達して、テレコムセクターが第3位となりました。これには上海証券取引所で、調達額で第1四半期において第2位のIPOが行われたことが起因しています。

Americas、Asia-Pacific、EMEIAにおけるIPO活動、および2022年第2四半期の見通しに関するその他の洞察については、 EYの世界のIPO市場動向2022年第1四半期のプレスリリースをご覧ください

地政学的な緊張と紛争、インフレの高まり、金利の上昇による向かい風が続く中、IPOを目指す企業は、こうした南極が自国の市場、顧客、自社のサプライヤーにどのように影響するか、新たな視点で見直すことが、必要不可欠です。
Paul Go
EY Global IPO Leader

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  • 全グラフのデータ定義

    本記事および世界のIPO市場動向におけるデータ:2022年第1四半期レポートで示されたデータはDealogicおよびEYによるものです。2022年第1四半期(1月~3月)と2022年初来(1月~3月)のデータは、2022年3月23日時点で完了しているIPOおよび3月中(3月31日まで)に取引開始予定のIPOに基づいています。データは2022年3月23日(終業時間)時点のものです。 

    • 上記のレポートやニュースリリースに記載するIPO統計の集計にあたっては事業会社のIPOのみを対象とし、IPOを「企業が新規に上場し、市場に株式を公開すること」と定義しています。
    • 本レポートの対象は、取引初日(証券取引所で取引が開始された日)と取引金額(オーバーアロットメントによる売り出しを含めた調達資金)に関するデータをDealogicとEYのチームが提供しているIPOのみです。
    • 取引初日に基づき、どの四半期のディールとして扱うかを決めています。そのため、延期されたIPO、あるいは公募価格がまだ決められていないIPOは除外されています。店頭(OTC)上場も対象外としています。
    • 信託、ファンド、特別買収目的会社(SPAC)など、事業会社以外のIPOを除外するため、標準産業分類(SIC)の以下のコードに該当する企業は対象から外しています。
      • 6091:信託・保証・管理業務を行う金融事業者
      • 6371:厚生基金、年金基金、それらの事務代行会社(TPA)、その他の金融ビークルなどの資産運用会社
      • 6722:オープンエンド型投資ファンド会社
      • 6726:その他の金融ビークル会社
      • 6732:助成金を交付する基金事業者
      • 6733:信託、財産、代理店勘定を扱う資産運用会社
      • 6799:特別買収目的会社(SPAC)
  • 地域別IPO銘柄パフォーマンスの定義

    • アフリカには、アルジェリア、ボツワナ、エジプト、ガーナ、ケニヤ、マダガスカル、マラウイ、モロッコ、ナミビア、ルワンダ、南アフリカ、タンザニア、チュニジア、ウガンダ、ザンビア、ジンバブエが含まれる。
    • Americas(北・中・南米)には、アルゼンチン、バミューダ、ブラジル、カナダ、チリ、コロンビア、エクアドル、ジャマイカ、メキシコ、ペルー、プエルトリコ、米国が含まれる。
    • ASEAN(アセアン)には、ブルネイ、カンボジア、グアム、インドネシア、ラオス、マレーシア、モルディブ、ミャンマー、北マリアナ諸島、フィリピン、シンガポール、スリランカ、タイ、ベトナムが含まれる。
    • Asia-Pacific(アジア・パシフィック)には、上記のASEAN諸国、以下に示す中華圏、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、フィジー、パプア・ニューギニアが含まれる。
    • EMEIA(欧州、中東、インド、アフリカ)には、アルメニア、オーストリア、バングラデシュ、ベルギー、ブルガリア、クロアチア、キプロス、チェコ共和国、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイスランド、インド、アイルランド、マン島、イタリア、カザフスタン、ルクセンブルク、リトアニア、オランダ、ノルウェー、パキスタン、ポーランド、ポルトガル、ロシア連邦、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、ウクライナ、英国のほか、以下に示す中東諸国、上記のアフリカ諸国が含まれる。
    • 中華圏には、中国、香港、マカオ、台湾が含まれる。
    • 中東には、バーレーン、イラン、イスラエル、ヨルダン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、シリア、アラブ首長国連邦、イエメンが含まれる。
  • IPOディールの定義 — 上位証券取引所

    本則市場に加え、必要に応じて新興市場のデータを使用しています。横軸の表記は証券取引所の略称です(正式名称は、以下をご参照ください)。

    Asia-Pacific(アジア・パシフィック)

    • ASX:オーストラリア証券取引所
    • HKEx:香港証券取引所主板(メインボード)および創業板のGEM
    • IDX:インドネシア証券取引所
    • KLSE:マレーシア証券取引所、ACEマーケット・LEAPマーケット
    • KRX:韓国証券取引所および新興市場のKOSDAQ
    • SSE:上海証券取引所および科創板のSTAR
    • SZSE:深圳証券取引所および創業板のChiNext
    • TSE:東京証券取引所本則市場と新興市場のマザーズおよびジャスダック

    EMEIA(欧州、中東、インド、アフリカ)

    • ADX:アブダビ証券取引所
    • BIST:イスタンブール証券取引所
    • Indian:インドの国立証券取引所および新興市場の中小企業(SME)板と、ボンベイ証券取引所および新興市場のSME板
    • イタリア:イタリア証券取引所、メインマーケット・ジュニアマーケット
    • NASDAQ OMX:NASDAQ OMX Nordics本則市場および新興市場のFirst North(本拠地:コペンハーゲン、ヘルシンキ、ストックホルム、リガ)
    • OB:オスロ証券取引所・オスロアクセス
    • サウジアラビア:サウジアラビア主要市場・Nomuパラレル市場
    • TASE:イスラエルのテルアビブ証券取引所

    Americas(北・中・南米)

    • NASDAQ:米国のナスダック証券取引所
  • セクター別のIPOディールとIPO取引金額の定義

    企業の標準産業分類(SIC)コードを使用したトムソン・ロイター社の産業分類に従ってセクターを分類しています。11のセクターがあり、それぞれの産業名と定義は以下の通りです。横軸にセクターが11あります。

    • 消費財:「消費必需品」と「消費財・サービス」を合わせたセクター。具体的な対象産業:農業・畜産、飲食、家庭・個人用品、繊維・アパレル、たばこ、教育サービス、人材サービス、家具・インテリア、法務サービス、その他の消費財、プロフェッショナルサービス、旅行サービスなど
    • エネルギー:具体的な対象産業:代替エネルギー源、石油・ガス、その他のエネルギー・電力、石油化学製品、パイプライン、電力、水・廃棄物管理など
    • 金融:具体的な対象産業:資産運用、銀行、証券会社、信用機関、各種金融、政府系企業、保険、その他の金融など
    • ヘルスケア:具体的な対象産業:バイオテクノロジー、医療機器・用品、ヘルスケア事業者・サービス(HMO)、病院、製薬企業など
    • 工業:具体的な対象産業:航空宇宙・防衛、自動車・部品、建築/建設・エンジニアリング、機械、その他の工業、運輸、インフラなど
    • 素材:具体的な対象産業:化学、建設資材、容器・包装、金属・鉱業、その他の素材、紙・森林製品など
    • メディア・エンターテインメント:具体的な対象産業:広告・マーケティング、放送、ケーブルテレビ、カジノ・賭博、ホテル・宿泊、映画・AV、その他のメディア・エンターテインメント、出版、レクリエーション・レジャーなど
    • 不動産:具体的な対象産業:非住居用、その他の不動産、不動産管理・開発、住居用不動産など
    • 小売:具体的な対象産業:アパレル小売、自動車小売、コンピューター・電子機器小売、ディスカウントショップ、百貨店、飲食店、住宅リフォーム、通販(オンラインとカタログ)、その他の小売など
    • テクノロジー:具体的な対象産業:コンピューター・周辺機器、電子機器、インターネットソフトウエア・サービス、ITコンサルティング・サービス、その他のハイテクノロジー、半導体、ソフトウエアなど
    • テレコム:具体的な対象産業:その他のテレコム、宇宙・人工衛星、電気通信設備、電気通信サービス、無線など

過去のIPOレポート

サマリー

EYの2022年第1四半期におけるIPOの市場動向レポートでは、世界のIPO活動が、市場条件が不安定になったことにより、2022年第1四半期に大きく減速したことを浮き彫りになりました。その要因には、地政学的緊張の高まり、不安定な株式市場、直近のIPOで過大評価された株価の調整、コモディティやエネルギー価格の高騰の懸念、インフレの影響と金利引き上げの可能性、新型コロナウイルス感染症の再拡大のリスクなどが挙げられます。

この記事について

執筆者 Paul Go

Asia-Pacific EY Private Assurance Leader

Leads Chinese and multinational companies in client servicing domain. Heads Hong Kong real estate, hospitality and construction sector audit group.