2021年第4四半期のIPO:将来に向けて十分なレジリエンスを備えた成長戦略を描いていますか?

執筆者 Paul Go

Asia-Pacific EY Private Assurance Leader

Leads Chinese and multinational companies in client servicing domain. Heads Hong Kong real estate, hospitality and construction sector audit group.

EY Japanの窓口

EY Japan IPOリーダー/EY Startup Innovation共同リーダー EY新日本有限責任監査法人 企業成長サポートセンター長

EY Japan でIPO監査分野をリードする。スタートアップ・エコシステムの熱狂的サポーター。ゴルフ好き。

4 分 2022年2月24日

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世界全体のIPOは2021年に過去最高を記録し、2022年に想定される逆風に備えています。

要点
  • 世界全体のIPOは前年比で件数が64%、調達額は67%増加した。
  • 2021年第4四半期は、2007年第4四半期以来最大の件数を記録した。
  • 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種の実施、経済回復、高い流動性といった材料が年初の楽観論を後押しした。
Local Perspective IconEY Japanの視点

2021年度、日本では125社が新規上場しました。これは前年の93社から34%の増加で、中長期的に見ると2006年以来の新規上場社数となりました。また、全世界の新規上場社数は、2,388社で前期比64%の増加となり、世界的に見ても好調なIPOの結果となりました。

2022年度の日本の新規上場社数については、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の不確実性はあるものの、多くの市場関係者は2021年度並みかそれを超える会社が新規上場するとみています。

2022年4月に東京証券取引所の市場再編が行われます。多くの新規上場を目指すスタートアップは、「グロース市場」を選択するものと考えられます。マザーズ市場と比較した場合、新規上場基準を見る限りは、時価総額、株主数、流通株式数の基準が緩和されてますが、上場維持基準では、流通株式の時価総額が2.5億円から5億円に引き上げられており、この点注意が必要です。また、流通株式の計算方法が変更になっていること、「事業計画及び成長可能性に関する事項」を継続的に開示することが求められることも変更点になっています。

 

出典:「日本の新規上場動向 - 2021年1月~12月」(2022年1月28日)、EY Japanウェブサイト(2022年2月22日アクセス)

 

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齊藤 直人
EY Japan IPOリーダー/EY Startup Innovation共同リーダー EY新日本有限責任監査法人 企業成長サポートセンター長


2021年の不確実な環境にもかかわらず、世界のIPO市場は異例の年となり、第4四半期も引き続きIPO件数と調達額が過去最高を記録しました。全体では、2021年の件数は2,388件、資金調達額は4,533億米ドルとなり、前年比でそれぞれ64%、67%の増加となっています。

世界のIPO市場では、2021年を通して件数と調達額の双方に全体的な増加が見られましたが、最大の伸びを示したのは欧州、中東、インド、アフリカ(EMEIA)の取引所であり、件数で158%、調達額では214%の増加となりました(件数は724件、調達額は1,094億米ドル)。Americas(北・中・南米)も引き続き活況を呈し、IPO件数は528件、調達額は1,746億米ドルで、それぞれ87%、78%の増加を示しています。Asia-Pacific(アジア・パシフィック)地域では、件数は1,136件(28%増)、調達額は1,693億米ドル(22%増)と、比較的緩やかな増加にとどまりました。

セクター全体で見ると、テクノロジーセクターのIPO件数が最も多く(611件)、2020年第3四半期以来6四半期連続でトップを維持、調達額(1,475億米ドル)は2020年第2四半期以来7四半期連続で最大となっています。件数と調達額でそれに続くのがヘルスケアセクターで、IPOの件数が376件、調達額は654億米ドルでした。工業セクターはヘルスケアと大差なく、IPO件数は310件、調達額は631億米ドルとなりました。

新年を見据え、IPO活動に影響を及ぼしそうな追い風と逆風の両方が視野に入ってきました。地政学的な緊張、インフレリスク、現在もなお進行している新型コロナウイルス感染症によるパンデミックの新たな展開や変異株など、経済の本格的な回復を妨げる要因が重なっています。こうした要因にもかかわらず、現在のところ、比較的高いバリュエーションと市場の流動性により、2022年のIPOの窓は開かれています。IPOを目指す企業には、市場ボラティリティの上昇を予想し、IPOスケジュールが遅延した場合の資金調達ニーズに対応する代替案を持つ、といった柔軟性を保つことが求められます。

 

IPOを目指す企業は、2022年にIPOを一時中断するか推し進めるかにかかわらず、レジリエンスのある成長戦略を描き、明確なESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みに対する投資家の要求を満たすことが求められます。
Paul Go
EY Global IPO Leader

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  • 全グラフのデータ定義

    本記事と世界のIPO市場動向におけるデータ:2021年レポートで公表されているデータの出典はDealogicとEYです。2021年第4四半期(10~12月)と2021年(1~12月)のデータは、2021年12月7日時点で完了しているIPOと12月中(12月31日まで)に取引が開始される予定のIPOに基づいています。データは12月7日(終業時間)時点のものです。

    • 上記のレポートやニュースリリースに記載するIPO統計の集計にあたっては事業会社のIPOのみを対象とし、IPOを「企業が新規に上場し、市場に株式を公開すること」と定義しています。
    • 本レポートの対象は、取引初日(証券取引所で取引が開始された日)と取引金額(オーバーアロットメントによる売り出しを含めた調達資金)に関するデータをDealogicとEYのチームが提供しているIPOのみです。
    • 取引初日に基づき、どの四半期のディールとして扱うかを決めています。そのため、延期されたIPO、あるいは公募価格がまだ決められていないIPOは除外されています。店頭(OTC)上場も対象外としています。
    • 信託、ファンド、特別買収目的会社(SPAC)など、事業会社以外のIPOを除外するため、標準産業分類(SIC)の以下のコードに該当する企業は対象から外しています。
      • 6091:信託・保証・管理業務を行う金融事業者
      • 6371:厚生基金、年金基金、それらの事務代行会社(TPA)、その他の金融ビークルなどの資産運用会社
      • 6722:オープンエンド型投資ファンド会社
      • 6726:その他の金融ビークル会社
      • 6732:助成金を交付する基金事業者
      • 6733:信託、財産、代理店勘定を扱う資産運用会社
      • 6799:特別買収目的会社(SPAC)
  • 地域別IPO銘柄パフォーマンスの定義

    • アフリカには、アルジェリア、ボツワナ、エジプト、ガーナ、ケニヤ、マダガスカル、マラウイ、モロッコ、ナミビア、ルワンダ、南アフリカ、タンザニア、チュニジア、ウガンダ、ザンビア、ジンバブエが含まれる。
    • Americas(北・中・南米)には、アルゼンチン、バミューダ、ブラジル、カナダ、チリ、コロンビア、エクアドル、ジャマイカ、メキシコ、ペルー、プエルトリコ、米国が含まれる。
    • ASEAN(アセアン)には、ブルネイ、カンボジア、グアム、インドネシア、ラオス、マレーシア、モルディブ、ミャンマー、北マリアナ諸島、フィリピン、シンガポール、スリランカ、タイ、ベトナムが含まれる。
    • Asia-Pacific(アジア・パシフィック)には、上記のASEAN諸国、以下に示す中華圏、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、フィジー、パプア・ニューギニアが含まれる。
    • EMEIA(欧州、中東、インド、アフリカ)には、アルメニア、オーストリア、バングラデシュ、ベルギー、ブルガリア、クロアチア、キプロス、チェコ共和国、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイスランド、インド、アイルランド、マン島、イタリア、カザフスタン、ルクセンブルク、リトアニア、オランダ、ノルウェー、パキスタン、ポーランド、ポルトガル、ロシア連邦、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、ウクライナ、英国のほか、以下に示す中東諸国、上記のアフリカ諸国が含まれる。
    • 中華圏には、中国、香港、マカオ、台湾が含まれる。
    • 中東には、バーレーン、イラン、イスラエル、ヨルダン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、シリア、アラブ首長国連邦、イエメンが含まれる。
  • IPOディールの定義 — 上位証券取引所

    本則市場に加え、必要に応じて新興市場のデータを使用しています。横軸の表記は証券取引所の略称です(正式名称は、以下をご参照ください)。

    Asia-Pacific(アジア・パシフィック)

    • ASX:オーストラリア証券取引所
    • HKEx:香港証券取引所主板(メインボード)および創業板のGEM
    • KRX:韓国証券取引所および新興市場のKOSDAQ
    • SSE:上海証券取引所および科創板のSTAR
    • SZSE:深圳証券取引所および創業板のChiNext
    • TSE:東京証券取引所本則市場と新興市場のマザーズおよびジャスダック

    EMEIA(欧州、中東、インド、アフリカ)

    • FSE:Deutsche Börse本則市場および新興市場のScale
    • Euronext:ユーロネクスト(アムステルダム、ブリュッセル、リスボン、パリ)および新興市場のAlternext(アムステルダム、ブリュッセル、リスボン、パリ)
    • Indian:インドの国立証券取引所および新興市場の中小企業(SME)板と、ボンベイ証券取引所および新興市場のSME板
    • LSE:ロンドン証券取引所本則市場および新興市場のAIM
    • NASDAQ OMX:NASDAQ OMX Nordics本則市場および新興市場のFirst North(本拠地:コペンハーゲン、ヘルシンキ、ストックホルム、リガ)
    • TASE:イスラエルのテルアビブ証券取引所

    Americas(北・中・南米)

    • NASDAQ:米国のナスダック証券取引所
    • NYSE:米国のニューヨーク証券取引所
    • B3:サンパウロ証券取引所
  • セクター別のIPOディールとIPO取引金額の定義

    企業の標準産業分類(SIC)コードを使用したトムソン・ロイター社の産業分類に従ってセクターを分類しています。11のセクターがあり、それぞれの産業名と定義は以下の通りです。横軸にセクターが11あります。

    • 消費財:「消費必需品」と「消費財・サービス」を合わせたセクター。具体的な対象産業:農業・畜産、飲食、家庭・個人用品、繊維・アパレル、たばこ、教育サービス、人材サービス、家具・インテリア、法務サービス、その他の消費財、プロフェッショナルサービス、旅行サービスなど
    • エネルギー:具体的な対象産業:代替エネルギー源、石油・ガス、その他のエネルギー・電力、石油化学製品、パイプライン、電力、水・廃棄物管理など
    • 金融:具体的な対象産業:資産運用、銀行、証券会社、信用機関、各種金融、政府系企業、保険、その他の金融など
    • ヘルスケア:具体的な対象産業:バイオテクノロジー、医療機器・用品、ヘルスケア事業者・サービス(HMO)、病院、製薬企業など
    • 工業:具体的な対象産業:航空宇宙・防衛、自動車・部品、建築/建設・エンジニアリング、機械、その他の工業、運輸、インフラなど
    • 素材:具体的な対象産業:化学、建設資材、容器・包装、金属・鉱業、その他の素材、紙・森林製品など
    • メディア・エンターテインメント:具体的な対象産業:広告・マーケティング、放送、ケーブルテレビ、カジノ・賭博、ホテル・宿泊、映画・AV、その他のメディア・エンターテインメント、出版、レクリエーション・レジャーなど
    • 不動産:具体的な対象産業:非住居用、その他の不動産、不動産管理・開発、住居用不動産など
    • 小売:具体的な対象産業:アパレル小売、自動車小売、コンピューター・電子機器小売、ディスカウントショップ、百貨店、飲食店、住宅リフォーム、通販(オンラインとカタログ)、その他の小売など
    • テクノロジー:具体的な対象産業:コンピューター・周辺機器、電子機器、インターネットソフトウエア・サービス、ITコンサルティング・サービス、その他のハイテクノロジー、半導体、ソフトウエアなど
    • テレコム:具体的な対象産業:その他のテレコム、宇宙・人工衛星、電気通信設備、電気通信サービス、無線など

過去のIPOレポート

サマリー

2021年は不確実な環境が予想されていたものの、世界のIPO市場は第4四半期も引き続き件数と調達額の両方で記録を更新しました。新型コロナウイルス感染症のワクチン接種プログラムの実施、世界経済の回復、政府の景気刺激策による潤沢な流動性などにより、楽観的な見方が広がりました。

欧州、中東、インド、アフリカ(EMEIA)が成長をけん引し、IPOの件数と調達額の増加率が最大となりました。最も活況を呈したのは世界的なテクノロジーセクターで、ヘルスケア、工業がそれに続きます。2022年、IPOを目指す企業はIPOスケジュールの変更も想定して、柔軟に対応する必要があります。また、投資家の要求を満たすには、明確なESGへの取り組みが求められます。

この記事について

執筆者 Paul Go

Asia-Pacific EY Private Assurance Leader

Leads Chinese and multinational companies in client servicing domain. Heads Hong Kong real estate, hospitality and construction sector audit group.

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EY Japan でIPO監査分野をリードする。スタートアップ・エコシステムの熱狂的サポーター。ゴルフ好き。