9 分 2023年1月19日
光で絵を描く人と水面に反射する光

通信業界が直面するリスクトップ10(2023年版)

執筆者
Tom Loozen

EY Global Telecommunications Sector Leader

Fascinated by the positive impact of telecoms. Passionate musician. Enjoys educating himself on psychology, wine, sports, technology, arts and much more. Husband and father of three daughters.

Adrian Baschnonga

EY Global Telecommunications Lead Analyst

Lead Analyst with deep sector knowledge in technology, media and telecom, gained in professional services and business intelligence environments.

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EY Japan テクノロジー・メディア & エンターテインメント・テレコムリーダー EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 セクターリーダー コンサルティング・マーケッツリーダー パートナー

「顧客価値」を引き出すべくチームをリード。愛する妻と娘がいる。

9 分 2023年1月19日

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困難な時期が続く中、レジリエンスの維持に奮闘する通信業界。通信事業者が直面するリスクのトップ10を詳しく見ていきます。

要点

  • 生活費高騰の危機に直面する顧客からの圧力に対して、通信業者は適切かつ効果的に対応する必要がある。
  • 通信事業者は、特にセキュリティおよび信頼に重点を置くべきである。通信事業者のCISO(最高情報セキュリティ責任者)の39%は、戦略的投資の中でセキュリティへの投資が十分に考慮されていないと考えている。
  • 職場文化およびサステナビリティへの取り組みの向上は、業界の喫緊の課題として上位に挙げられている。
Local Perspective IconEY Japanの視点

収束を見せないコロナ禍に加えて、地政学的リスクやインフレ、為替リスクなど引き続き先の見えない状況が続いています。このような状況下でコストに対する消費者の要求はシビアなものになっている一方で、コロナ禍においてリモートワーク、ネットショッピング、ストリーミングなどで醸成された「インターネットと生活の結びつき」も強化されていき、5Gなどの通信品質やセキュリティへのニーズも高まっています。通信業者はこのような消費者のニーズに応えるために、5Gやセキュリティの投資と同時にコスト面においても「割安サービス」を開発するなど競争力を発揮する必要があり、今まで以上に難易度の高いかじ取りを求められています。

 

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尾山 哲夫
EY Japan テクノロジー・メディア & エンターテインメント・テレコムリーダー EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 セクターリーダー コンサルティング・マーケッツリーダー パートナー
斎藤 武彦
EY Japan テレコムセクターリーダー EY Japan株式会社 ディレクター

2023年を迎える今、近年の地政学的・経済的な混乱の中で、世界各地の通信事業者は全体においてレジリエンスを発揮できたことが自信となっています。パンデミック中に安値をつけた世界の通信セクターの株価も、この2年間、物価上昇やM&A取引、政府の介入によって、回復はまだ緩やかで一定ではないものの、おおむね戻りつつあります。

現在、通信事業者は、移り変わりの激しい事業環境を乗り切るべく戦略の見直しを図っているところです。デジタルトランスフォーメーション構想の範囲や目標を拡大しつつ、改めてサステナビリティにも力を入れ、職場のダイバーシティ、 エクイティ &インクルーシブネス(DE&I)の向上や新たな人材獲得にも動いています。

しかし、そうした目標の達成を目指すに当たって、現在直面しているリスクや今後生じるリスクへの対応は十分なのでしょうか。物価が上昇して経費を押し上げる中、生活費高騰の危機にあえぐ顧客からの圧力や、セキュリティに関する期待の拡大、職場文化に対する意識の変化など、通信事業者はさまざまな課題に対応しなければなりません。こうした目前の脅威は多岐にわたり、その対応は急務です。

本稿では、通信セクターにおけるリスクのトップ10を挙げ、どうすればそれらを緩和できるかを考察します。

1. 生活費高騰の危機にあえぐ顧客への対応が不十分

生活費高騰の危機をきっかけに人々は、自身が通信プロバイダーから得ている価値を再評価するようになりました。EY Decoding the Digital Home(デジタルホームを解き明かす)調査によると、コンテンツサービスが高すぎると考える世帯は45%、ブロードバンドプロバイダーは最適なプランを提示する努力が足りないと考える世帯は44%に上ります。また、「ソーシャルタリフ(社会的関税)」を導入して利用者の負担を軽くするよう、規制当局から一層の努力を求められているケースもあります。

2. セキュリティや信頼面における喫緊の課題の変化を軽視している

拡大するサイバー脅威に後れをとらないよう通信事業者は苦心しています。消費者の46%は、インターネット利用時に個人データを守ることは不可能だと考えています1。また、通信業界のCISOの39%は、戦略的投資の中でセキュリティへの投資が十分に考慮されていないと考えています2。プラス面に目を向けると、CISOの半数以上が、パンデミックをきっかけにサイバーセキュリティ専門家の存在感が組織内で高まったと答えていますが、セキュリティ部門は製品開発チームといった他部署の相談先として信頼度が比較的低いというのも事実です。

3. 職場文化と働き方の改善に難航している

職場文化については、雇用側と従業員側で意見が分かれています。パンデミックが企業文化に与えた影響について、雇用側は従業員の離職を受けて悲観的になっている一方で、従業員側は、リモートワークによって裁量権を与えられたと感じ、パンデミック以降、職場文化は向上したと考えています3「労働市場で進む力のバランスの変化がどのように人材パイプラインを圧迫しているのか」によれば、テクノロジー、メディア・エンターテインメント、テレコム(TMT)の従業員の91%が週に2日以上のリモート勤務を望んでいる一方で、TMTの雇用側の 25%は、全員を週5日の出社勤務に戻すべきと考えています。通信事業者は社員の声に耳を傾け、対応する必要があります。さもなければ、大切な人材を失いかねません。

4. サステナビリティへの取り組みの管理がずさんである

EYグローバル気候変動リスクバロメーターによると、通信事業者による気候変動開示情報の質は年々悪化しています。また、再生可能エネルギー消費や電気電子機器廃棄物(e-waste)管理などの環境・社会・ガバナンス(ESG)指標の報告が欠けていることも多いのが現状です。さらに、具体的なネットゼロ戦略、移行計画、脱炭素化計画を開示していない通信事業者は39%に上ります。顧客ニーズも急速に進化しています。大企業の47%は、ベンダーの5GおよびIoTのユースケースが自社のサステナビリティのニーズに適切に対応できていないと考えています4。ステークホルダーからの期待の変化に対応するには、改善努力が不可欠です。

5.デジタル化による効率化が進まない

インフレ圧力が続く昨今、通信事業者にとって効率性と俊敏性の向上は、これまで以上に重要になってきています。しかし EY Tech Horizon調査によると、新しいテクノロジーを活用して変革する能力は、さまざまな複雑な要素によって阻害されていることが分かります。人的な要因も進歩の足かせとなっています。トランスフォーメーション計画で直面している最大の文化的課題として、リモートワークが共同作業にマイナスの影響を及ぼしている点が挙げられています。

6. インフラのレジリエンスとリーチ(到達範囲)を確保できない

顧客が問題視しているのは、依然としてネットワークの信頼性です。EY Global Decoding the Digital Home Study(デジタルホームを解き明かす)調査では、28%の世帯が、ブロードバンド接続が不安定になることがよくあると回答しています。加えて、データ利用量が際限なく増え続けていることも事業者にとっての課題です。さらに、インフラに対する圧力は情報格差(デジタルデバイド)への懸念を伴うもので、パンデミックによって、デジタルアクセスを持つ者と持たざる者の二極化がさらに進みました。ネットワークが利用できる地域であっても、恩恵を受ける経済力がない家庭が存在することから、インフラが整備されている場所すべてにおいてサービスを普及させるには、さらなる取り組みが必要です。

7. 新たなビジネスモデルを活用する能力が欠如している

消費者市場の飽和に加え、1ユーザー当たりの平均収益(ARPU)の伸びにも限度があることから、多くの事業者はB2Bの成長機会を優先させています。しかし、IoTやクラウドなど高成長商品の収益の割合は比較的小さいため、そうした動きはまだ目立った成果を上げていません。また、特にNetwork as a Service(NaaS)のような新サービス分野では、通信事業者が提供する新たな商品サービスと、顧客が求めるものとの間にはズレがあります。

8. インフラ資産の価値を最大化できない

インフラの価値を引き出そうとする通信事業者の動きが加速しており、ダイベストメント、カーブアウトや合弁事業を通して、各種インフラのオーナーシップモデルの見直しが図られています。アクティビスト(物言う株主)もさらにそれを促進する存在であり、通信事業者の63%は、彼らの圧力を受けて戦略を見直したと答えています5。また、社内にも問題はあります。通信事業者CEOのほとんどは、コアインフラとそれ以外のインフラの明確な線引きはダイベストメント計画に有用という見方をしていますが、多くは、ダイベストメントの際にコアビジネス再考の機会を逃したと考えています。

9. 外部エコシステムとの関わり方が効果的ではない

ネットワークインフラを取り巻く状況は、ますます流動的になっています。ハイリスクなベンダーに制限を課す国もあることや技術の進化により、ソフトウェア主体のネットワークサプライヤーの参入に拍車がかかりました。プライベート5Gネットワークに対する需要も高まっており、企業はそれに関するエコシステムを有するサプライヤーを積極的に探しています6。こうした動きから、通信事業者には外部との連携のさらなる強化が求められています。しかし、エコシステム連携はまだ通信事業者の戦略の中心ではなく、複数のパートナーシップを新たなビジネスモデルの核として考えている企業は11%に過ぎません7

10. 規制環境の変化に適応する能力が欠如している

パンデミックや生活費高騰の危機、地政学的要因、サステナビリティへの配慮、オンラインの安全性に対する懸念などが入り交じり、ネットワークのサプライチェーンやデジタルデバイド、社会的に弱い立場にある顧客への支援に注目が集まる中、規制の優先順位が変わりつつあります。多くの国では、データ保護法やプライバシーに関する規則の制定や改正が進んでおり、規制に対するアプローチの細分化により別の問題も生じています。AIへの規制に注目が高まっていますが、細分化リスクをさらに高めることが懸念されます。とはいえ、政府の支援を得てインフラをアップグレードするなど、デジタル政策によってチャンスが生まれる可能性もあります。

こうしたリスクを軽減するには

変化の激しい世界では通信業界を取り巻くリスクも変わっていきます。通信事業者は常に地平線を見渡し、脅威の出現に目を光らせ、脅威に対応する緩和戦略を新たに策定していかなければなりません。その際に重要なのは、一見関係がなさそうに見えるリスク同士の関連性を見極めることです。

まず生活費高騰の危機による顧客圧力への対応、セキュリティに関して高まる期待への対応、そしてデジタル化による効率性の促進の必要性について考察します。明確でシンプル、しかも安全なデジタルセルフサービスを顧客に提供できれば、今挙げた3つの課題をすべて解決できる可能性があります。同様に、エネルギー使用量や炭素排出量、職場のDE&Iなど、ESGの全要素に関わるサステナビリティアジェンダをうまく管理できれば、効率を向上できるだけでなく、顧客や従業員、エコシステムのパートナー企業の信頼やエンゲージメントを高めることもできます。

リスク同士の関連性を意識することに加え、リスクの多くは企業の隅々にまで、さまざまな影響を及ぼすことを認識しておくことが重要です。例えば、新しいビジネスモデルの可能性を生かすには、費用対効果の高い商品サービスの提供や、エコシステム提携、サステナビリティやセキュリティの一層の強化などを包括して戦略的に取り組む必要があります。これらすべてに同時に対処するには、組織の幅広いスキルセットを活用する多層的視点が求められます。

通信業界が直面するリスクトップ10(2023年版)

レポートの全文はこちらからご覧いただけます。困難な時期にレジリエンスを維持するのに役立つ知見を提供しています。

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サマリー

2023年を迎える今、通信業界は、近年不安定な状況の中でも堅調な業績を上げたことに自信を示しています。目下の焦点は、不確実性が続く中でのかじ取りであり、デジタル化の加速とサステナビリティの強化となっています。

この記事について

執筆者
Tom Loozen

EY Global Telecommunications Sector Leader

Fascinated by the positive impact of telecoms. Passionate musician. Enjoys educating himself on psychology, wine, sports, technology, arts and much more. Husband and father of three daughters.

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