COOが直⾯する喫緊の課題:変革を定義するか、定義される側に回るのか

執筆者 Steve Krouskos

EY Global Managing Partner – Business Enablement

スティーブ・クロスコス / EYが長期的価値を生み出せるよう尽力。フロリダ大学卒業。息子であり、夫であり、4人の子どもを持つ父親。

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25年以上に及ぶ企業幹部の経験を持つベテラン戦略コンサルタント。大の赤ワイン好き。ゴルフ愛好家。

9 分 2022年3月23日

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックがもたらした変化は、企業はもとよりCOOの役割にも影響を与えています。パーパスドリブンな景気回復を加速させる上で、COOは重要な役割を担う必要があります。

要点
  • COOは今や企業戦略を積極的に立案する機会と義務とがある。
  • 顧客の期待の変容と業務のデジタル化により、顧客とCOOとが直接つながる新時代が到来している。
  • COOはアジャイル(俊敏)な業務体制とサプライチェーンとを構築することにより、グローバルな競争における決定的な優位性を得ようとしている。

新型コロナウイルス感染症の影響で、最⾼執⾏責任者(COO)を取り巻く環境は天地がひっくり返るような変化が続いています。従業員の勤務体系はリモートに移⾏し、サプライチェーンの混乱は回復せず、⽣産ラインの停⽌は発生し、顧客の需要は急騰・急落を繰り返しています。

COOは今、おそらく他のどの経営幹部をおいても、企業再建を主導する⽴場にあります。しかし、最良の対応としては、単に再建を図ることだけでは足りません。将来を⾒据えたCOOの中には、パンデミックによる危機から学んだことを⽣かして、以前よりもレジリエンスと俊敏性に優れた、パーパスドリブンの企業を築こうとしている人がいます。

EYの提供する記事のうち、Imperative Collectionの一部である「COOが直面する喫緊の課題」シリーズでは、COOが組織の未来を再構築する上で役立つ重要な課題と対応策について考察しています。世界中のCスイートは今、⾃社を成⻑軌道に戻すと同時に、幅広いステークホルダーに⻑期的かつ持続可能な価値をもたらすにはどうすればいいかという課題に取り組んでいます。

EYは最近の記事でパーパス主導型の成⻑戦略における4つの柱に焦点を当て、持続可能な成⻑を目指してCEOがどのような計画立案をできるかを考察しました。4つの柱とは信頼国際間取引テクノロジー持続可能性であり、それぞれ人(従業員と顧客)を中心としています。本稿では、パーパスドリブンな景気回復に向けて着⼿するにあたり、COOが中⼼となって進めることができ、かつ進めるべきでもある4つの取り組みを概説します。COOが直面している喫緊の課題は以下となります。

自身の立場を生かして積極的に戦略的ビジョンを構築する

これまでのCOOの役割とは対内的なものであり、社内の業務とその実⾏を中⼼とし、戦略策定を担ってきたのは他のCスイートでした。しかし、それも今や変化しています。

パンデミック後の世界では、従来の枠組みの解体が加速度的に進む中で、COOの役割は、戦略策定に不可⽋な各部⾨をまとめる中心的役割を担うこととなりました。COOには顧客について優れた洞察力があります。昨今カスタマーリレーションの管理手法は、製品に搭載されたセンサーやカスタマーサポート⽤のチャットボットなど、ますますテクノロジーがけん引するものとなっていますが、こうしたデジタルインターフェースから、COOは顧客の要望や⾏動について最新の知⾒を得ることができるのです。

  1. COOは鍵となるアナリティクスデータを管理下に置いています。多くの業界において、データの⼤半は⽣産⼯程、顧客への対応、製品性能といったCOOの担当領域で⽣成されています。CIO、CTO、テクノロジーチームと連携することで、深くデータに根差した、一歩踏み込んだ視点を企業にもたらすことができます。
  2. COOは組織運営の中核を担っています。フレキシブル⽣産やアジャイルなシステムを監督下に置くことで、競合他社の動きや市場の変化に対して戦略的対応を自在に取ることができます。
  3. COOはリスクを理解しています。COOは、国内向けのサプライチェーンや海外への輸出など、国境を越えた企業活動の多くを担当しています。COOの業務では地政学的リスク、貿易障壁、データ主権規則などに直⾯することも多く、特に、持続可能な成⻑戦略の重要な柱である国際間取引に関する戦略を⽴てる上で、⼤きく貢献することができます。

COOは、データ、業務管理、リスク管理に関する優れた洞察力を活⽤し、企業戦略策定の場に参画すべきです。状況は変わりました。COOは今や企業にとって重要な戦略担当者なのです。

  • ケーススタディー:伝統的な製造企業でCOOが変革を主導する

    ある世界的なHVAC(暖房、換気、空調)企業は、競合ひしめくコモディティ化した市場で事業を行っていましたが、COOとチームは新しいアイデアを考案しました。

    COOの指⽰の下、エンジニアリングチームが製品のパフォーマンスを監視するセンサー、ロボットアーム、無線送信機などを設置し、顧客のエネルギー需要を感知して直接対応できるようにしました。

    それから2年のうちに、同社はエネルギー管理事業への進出を果たしました。装置のリースを⾏い、収益は顧客のコスト削減分から得ています。また、顧客の二酸化炭素排出量の大幅な削減も実現させています。

顧客を中心に考える

従来のCOOは主に社内業務を担当し、顧客との関係構築は営業やマーケティング担当者の役割でした。新型コロナウイルス感染症による危機を契機に、COOが担当する領域でも顧客中⼼のトレンドが進んでいます。

第一に、顧客が変わりました。オンラインショッピングの利用増加により、商品の在庫や納期に対する顧客の期待が⾼まっています。⾃⾝のニーズに合わせてカスタマイズされたソリューションが提供されることを期待し求めています。デジタル空間での関係では、「競争は常にたった1回のクリックで決まる」ため、さらなる⾼い付加価値の提供と、より一層の顧客の固定化を図る必要が⽣じています。

第二に、顧客との関係が変わりました。パンデミックの影響で、テクノロジー(IoT:モノのインターネット)と⼿法(フレキシブル⽣産)の導⼊が加速し、⽣産チームは⼩ロットの注⽂への対応や製品のカスタマイズ、納期の短縮が可能になりました。また、製品やサービスにセンサーを組み込むことで、顧客情報をリアルタイムに取得できるようになりました。今やCOOは、⾃⾝が営業やマーケティング部⾨の延⻑にあって、顧客のニーズに応えるべく積極的に協働していると考えていいでしょう。

その結果、新たに顧客中心の考えをとることが、COOとしての役割となります。これまでの役割を越えてカスタマーエクスペリエンスに積極的に関わるべきです。COOは複雑な製品の販売に携わるべきで、サービス提供では主導する⽴場となるでしょう。ひいては、デジタルチャネルの活用を通じ、顧客との継続的な関係を築く上で決定的な役割を担うことになります。

  • ケーススタディー:COOが掲げる従量制保険の戦略的ビジョン

    何⼗年もの間保険会社は、被保険者の運転習慣について、推測を⽴てるしかありませんでした。しかし2000年代初頭、あるCOOのチームは⾞に無線モニターを搭載し、⾛⾏時間、時刻、速度などの運転習慣に関してこれまでにない⾼精度のデータを収集しました。

    この情報を総合してまずは正確な保険統計表が作られましたが、そのCOOは、利⽤した分だけ⽀払う保険というビジョンにこだわり続けました。その結果、現在では保険業界に⾰命を起こしている急成⻑分野となっています。

デジタルの業務を活⽤して、迅速な対応だけでなく、積極的かつアジャイルな対応を実現する

⽣産⼯程の切り替え、製品の共同設計、構成可能な製品など、業務のアジリティ(俊敏性)というと、エンジニアの世界の話に聞こえるかもしれません。しかし、こうした柔軟な生産対応が、アジャイルな企業としての競争⼒を⽀える新たな基盤になります。

従来型の製造業が顧客の要求に応えるには数週間を要します。⼩売業は4四半期先まで予測して、新しい⽣産ラインや製品を準備しています。⾦融サービスでは、消費者向けの新商品を導⼊して提供するまでに数年かかります。こうした時期的な遅れや資本上の要件を抱えているため、従来のCOOは外部からの働きかけに対し受け⾝の姿勢にとどまり、市場をリードするよりも、後れを取らぬよう努めていました。

しかし、業務効率を積極的に⾼めることは競争上の強みとなります。アジャイルな考え⽅や⽅法論を⽤いれば、顧客独⾃のニーズを満たすような製品をいち早く、より低価格で市場に投⼊できます。これは単なる業務体制の変化ではありません。COOを戦略上のマーケットメーカーへと変貌させるものです。COOにとって、そのためのアクションは3つあります。

  • 顧客から直接のフィードバックを得られる体制を整備する︓新しいデジタルタッチポイントを利⽤し、顧客のリアルタイムの「気持ち」を把握することで、迅速な対応をします。
  • デジタルの業務と製造⼯程を結集し、ビジネス要求に迅速に応える︓急ぎの注⽂からカスタム⽣産まで、速やかに対応します。
  • 不安定要素の管理に積極的な姿勢で臨む︓ロボティクスとオートメーションを駆使し、混沌とし予測不能なマーケットに対処します。

このレベルのコネクティビティとアジリティを業務体制に統合するのはテクノロジー重視のアプローチに思われるかもしれませんが、現実にはその逆の人間的側面があります。COOが業務の中⼼に⼈(この場合は顧客)を据えるという、持続可能な成⻑戦略の重要な要素について、テクノロジーへの投資全てが⼈に良い結果をもたらすよう、提案を⾏うことができるのです。

  • ケーススタディー︓ティーンエージャーのファッションの嗜好変化を捉える

    ティーンエージャーの⼥性は、最も難易度の高い顧客層に挙げられます。購⼊⾦額は⾼いものの、特定のファッションアイテムに対する需要は数週間単位で急増・急落します。そんな中、⽶国に拠点のあるアパレル企業のCOOは、新商品を20⽇未満で納品できる専⽤の⽣産ラインとサプライチェーンの構築を決定しました。

    需要予測をデザインに直結させるとともに、サプライヤー各社のエコシステムをつないで、迅速に対応するためのネットワークを作りました。運送時間の短縮も、オンショア⽣産と航空輸送の導入により実現しました。その結果、コンセプトから商品化までのサイクルが3週間まで短縮でき、今⽇まで、この重要分野で市場を独占的地位にいます。

レジリエントな人材と業務モデルを開発する

テクノロジー主導の変⾰の時代にあって、忘れられがちなのは変⾰の真の成功要因は⼈であることです。

COOが直⾯する⼈材の課題には2つの側⾯があります。1つには旧態依然とした組織体制です。多くの場合、重層構造でサイロ化されています。従来型のビジネスに合わせて設計されているものであり、新しいビジネスには適合しません。

2つ⽬の課題は⼈材にあります。転換期にある企業では、従業員の多くが解雇を恐れ、変化に消極的で、新たな環境に適応するための専⾨知識に欠け、またそのためのトレーニングを受けていないこともあります。COOは、以下の3つの⽅法でこれに対応すべきです。

  • 全従業員を再定義する︓まず将来図を描き、その将来図を実現するために必要とされる⼈材とスキルとを抽出します。次に、現在のスキルレベルを総合的に評価し、スキルギャップの分析を⾏うことで、再定義後の従業員の姿を明らかにします。これは変化に向けたCOOにとってのロードマップであり、⼈事やタレントマネジメントの担当者との協⼒を円滑に進めるための鍵となります。
  • パーパス重視の将来のビジョンを提⽰して、従業員のモチベーションを⾼める︓今⽇最も優秀とされる従業員らは給料のためだけに働いているわけではありません。キャリアの向上や個⼈的責任感のほか、公正であることやサステナビリティなどの⻑期的価値がモチベーションになっています。こうした⽬標が、企業の変⾰の⼀環でもあることを従業員に⽰す必要があります。
  • 将来に通⽤する⼈材を確保する︓テクノロジーを業務に組み⼊れる場合、COOは⼈材に関し2つの挑戦に取り組むことになります。まず、世界的な希少⼈材を巡って、⾃社のCIOらとの争奪戦に挑むことになります。もう1つには、そのような⼈材は従来の産業にも精通している必要があることです。例えば自律走行車の設計には、デジタルスキルに加えて⾃動⾞設計の深い経験が必要です。

多くのCOOにとって、解決策は全従業員のスキルアップと再教育です。近い将来、あるいは今すぐにでも、チーム内で講師やカリキュラム、スキルビルディングを⼿配し、将来に向けて⼈材を育てる必要があります。

  • ケーススタディー:従業員のスキルアップ

    ある世界的メーカーは、7年以内に全自律走行⾞を発売することを決定しました。このため、デジタルにも重機設計にも精通した人材を確保するという課題が生まれました。

    COOは、新規に⾼額な⼈材を雇い⼊れるのではなく、社内外の研修を通じて既存の⼈材を育てるプログラムを⽴ち上げました。その結果、適切なスキルを持った人材を確保できただけでなく、従業員からの支持も得られました。

COOにとってのチャンス

多くの企業において、COOはCEOの後継者のような存在ですが、新型コロナウイルス感染症によってもたらされた危機は、この継承プロセスを加速させた可能性があります。今やCOOは、戦略、ビジョン、市場への対応、⼈材などに責任を負う⽴場となりました。つまり、この再建の時代のCOOには、CEOに近い行動が求められています。そのような行動とは、ビジネスの再建を成功に導くために、戦略的なリーダーシップを発揮することから始まります。COOは、過去に戻ることではなく、持続可能かつパーパスドリブンの成⻑という未来に向かう必要があります。

サマリー

企業がパンデミックから回復する中で、COOは戦略的変⾰を主導し、加速させるという重要な⽴場にあります。業務に関する独⾃の視点と、データに基づく知⾒を活⽤することで、COOは戦略策定を推進する重要なキープレイヤーとなることができます。また、新しいテクノロジーを活⽤して、業務と顧客とをこれまでよりダイレクトにつなぐことができます。今こそアジャイルな業務体制とサプライチェーンを構築し、優れた市場対応⼒と⾼い費⽤対効果によって、持続的な競争⼒を⽣み出すときです。ポストコロナの機会を活⽤して、再定義された⼈材のスキル、⽣産性、モチベーションを向上させ、なにより、⼈を中⼼に据えることです。

この記事について

執筆者 Steve Krouskos

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