小売業 第2回:スーパーマーケット業、家電量販店業

2016年4月5日
カテゴリー 業種別会計

小売セクター
公認会計士 津田昌典/葉山良一

はじめに

第2回では、小売業のうちスーパーマーケット業及び家電量販店業における業務、会計処理及び内部統制の特徴について、解説します。なお、文中の意見は筆者の私見であり、法人としての公式見解ではないことをお断りしておきます。

第Ⅲ章 スーパーマーケット業

1. スーパーマーケット業とは

スーパーマーケット業とは、一般的に食料品や医療品、住関品(日用雑貨品、医薬・化粧品、家具・インテリアなど)を取り扱う総合スーパーと、食料品の販売を主に行う食品スーパーに分かれています。中でも、①単一資本で②11店舗以上を直接経営、管理している小売業は、チェーンストアと定義されています(『スーパーマーケット業界用語集2000』より)。また、この要件に加えて日本チェーンストア協会では、年商10億円以上のスーパーマーケットも通常会員としています。

本稿では、チェーンストアを想定しスーパーマーケット(以下、スーパー)について解説します。

2. スーパーマーケット業の特徴

(1) 仕入形態

スーパーは、廉価・大量販売に基づく多品種・大量仕入を行っており、各所に点在する店舗に多種多様な商品を配送する必要があります。そのため物流センター等を利用し、商品を一箇所に集中させ、集中させた商品の仕分けを行う必要がありますが、これを外部業者に委託することがあります。この際に、仕入先が各店舗への配送及び商品仕分けを行う手間を省いた対価を、仕入先から受け取るケースもあります。

(2) 販売形態

スーパーマーケット業の特徴としては、多品種・大量販売及び日常雑貨、衣料品などの家庭用品の販売を行い、原則として現金販売を行うことが挙げられます。一般的には、POSレジにて現金販売を行い、店員が直接接客する業態です。またセルフレジの導入に伴い、顧客が自らレジに商品を通すこともあります。

3. スーパーマーケット業の業務の流れ

(1) 仕入(センター納品)

センター納品とは、物流センター等の決められた箇所に一度商品を集積し、配送業者が物流センター等から各店舗に配送する取引形態をいいます。なお、物流センターにおける商品の各店舗への仕分けを、前述のように専門業者に委託することもあります。

また物流センターに関しては一般的にDCセンター(在庫保管型物流センター)とTCセンター(在庫通過型物流センター)の2種類がありますが、商品の責任移転時点が変わらない契約内容であれば、会社側の業務内容及び統制に関して、両者に大きな差はないと考えられます。

(2) 販売

顧客は自ら商品を手に取り、まとめてレジまで運び、レジにて現金同等物、クレジットカードで購入します。また近年は電子マネー等による購入もあります。商品の陳列場所に店員がいることは少なく、集合レジにおける対面販売がほとんどです。購入後は、顧客が自らレジ袋等に入れ商品を持ち帰ります。レジ現金及びPOSにて読み込まれたデータは、日々の業務終了後レジごとにまとめて納金・集計され、両データの照合が行われます。

(3) 納金

日々の売上金は、基本的に当日夜に各店舗の金庫又は納金機に保管し、翌日以降に警備会社等に引き渡し、警備会社等により会社の銀行口座へとまとめて入金されます。警備会社の納金機を利用する場合、納金機納入後から銀行口座へ入金されるまで当該現金は警備会社等に対する未収入金に振り替わり、所有権も会社から警備会社等へと移転します。

(4) 棚卸

棚卸は、売価還元法を採用しているスーパーマーケット業において、期末の在庫在高を把握し、売上原価を確定する最も重要な業務です。スーパーでは、多品種・大量の商品を搬入、搬出するに伴い、日々何回もの商品の移動(顧客及び従業員による)が行われているため、先入先出法等、一品ごとに棚卸資産を評価することは実務上困難といえます。従って簡便的な売価還元法を採用することが多く見受けられます。

棚卸は、期末日における在庫の実際在高に基づき棚卸資産の期末残高及び期間損益を確定させる重要な業務であり、原則として期末月に実施されます。そして棚卸による検数結果を集計した上で帳簿在高との突合が行われ、棚卸減耗損の算定、計上が行われます。なお、減耗損の発生する原因としては、盗難、紛失、検品の際の検数ミス、店舗における破損等が考えられます。

4. スーパーマーケット業の会計処理の特徴

(1) 売上

① 売場売上

売場の集合レジにて顧客が商品の対価として現金同等物又はクレジットカード等による支払いを行い、当該レジの一日分の売上金額が店舗ごとに集計され、売上計上が行われます。なお、POSの売上計上データと実際現金在高、受領した商品券在高及びカードリーダーによるクレジットカード使用記録等に差額が発生した際には、売上過不足金として雑収雑損処理されます。発生原因としては、現金の収受の際の数え間違い等が考えられます。

② テナント売上(賃貸料収入含む)

売場の一部において、テナントが営業を行う場合、委託売上又は賃貸収入として会計処理されることが考えられます。ここで、委託売上とは、テナントが売り上げた売上全額がスーパーの売上金額となる売上を意味し、賃貸収入とは、テナントが売り上げた売上の一部(定額又は売上等の歩合分)がスーパーの売上金額として計上されることを意味します。両者の違いは第三者から判別しづらいことがありますが、一般的に契約形態や、現金を一括で店舗が回収しているか否か等により使い分けられています。しかし、現行実務上、各企業において処理方法が統一されていないことも考えられます。

(2) その他営業収入(受取流通料)

前述のとおり、仕入先による各店舗への商品配送をスーパーが代理で行うことにより、発生する費用の一部を仕入先に負担してもらう場合に、その収入を受取流通料として、会計処理することがあります。この場合、当該収入については、仕入先から得た受取全額をその他収入として計上することが考えられます。

(3) 仕入(リベート含む)

スーパーにおける仕入の計上基準は一般的に商品の所有権が移転した時点である物流センター到着時といえますが、物流センターに限られることなく、店舗到着時に所有権が移転する契約(や慣行である)場合には、店舗到着時基準等が採用されると考えられます。

また、仕入先から一定の期間ごとに仕入数量に応じ仕入割戻として、リベート金を収受することがあり、仕入割戻を売価還元法の計算式に入れることなく、一括して売上原価の金額から減額することがあります。これは実務上、スーパーマーケット業において、どの仕入先から仕入れた商品が、どの店舗に配送され、どれだけ売れたのかという管理を仕入先ごとに行っていないことに起因しています。加えて、仕入割戻の算定基礎期間の開始日と終了日の両日がスーパーの一事業期間に帰属していないことにより、仕入割戻の期間帰属が明確に算定しにくいという理由も存在しています。

(4) 固定資産(減損損失及び店舗閉鎖関連費用)

スクラップ&ビルドの多いスーパーマーケット業において、店舗の閉鎖に伴う費用・損失の計上は、非常に重要なものとなっています。特に多店舗展開している企業にとって、利益を稼ぐことが困難な店舗からの撤退の意思決定は、毎年行われることも昨今では珍しくなくなってきました。このような状況の中、店舗閉鎖に伴う減損処理は、会社の意思決定に左右されます。

また店舗を自前で持つことなく、賃貸で所有することが多いスーパーマーケット業において、店舗の閉鎖と原状回復義務は関連性の強いものといえます。この点、資産除去債務に関する会計基準の適用により、資産除去債務として負債計上することが考えられます。

5. スーパーマーケット業における内部統制の特徴

(1) 現金管理

現金は、スーパーマーケット業において最も紛失、盗難リスクの高い勘定科目であり、会計上実在性が重要な勘定科目です。

当該リスクを軽減させるため、各店舗において日々数回金庫点検が行われます。レジ現金に関しては、従業員が接触する回数を極力減らすことにより現金事故の発生リスクを軽減させています。具体的には、レジからの納金及びレジへの入金の際に、鍵付きの現金BOXを利用することで現金に直接触れることなく、金庫とレジ間の運搬を可能にします。さらに、売上データと現金等価物の実際在高との照合を行い、違算が発生した場合には、違算の分析結果及び顛末を各レジ担当者から書類にて報告させることによりけん制を図ります。

(2) 仕入業務管理

仕入に関するリスクとしては、仕入に伴う商品数量、金額が正確に会計上反映されないことや、検品が正確に行われないことが挙げられます。

仕入業務に関しては前述のとおり、外部業者への仕分け作業等の委託に伴い、現場管理者としてスーパーの従業員が現場に常駐又は定期的に往査し、業務管理を行うことがあります。このような場合には、当該管理者による現場作業の管理業務自体が内部統制となります。また、統制手続としては、作業者の作業内容を視察し、抜き取り検査し、実施結果を確認する作業等が考えられます。

(3) 棚卸資産管理

日常的に商品の単品管理を行っていないスーパーにおいて、商品の数量について、帳簿と実際とが一致していないという問題は非常に大きいと考えられます。

スーパーは多品種・大量在庫を抱え、多店舗展開しているため、棚卸に関しては、外部業者に頼らざるを得ないケースもあります。この場合、検数作業自体は外部の専門業者が行い、作業のチェック及び作業結果のチェックを従業員が行うことになり、当該チェックが重要な内部統制となります。具体的には、従業員が作業者の作業内容を視察し、抜き取り検査し、実施結果を確認する作業等が考えられます。

第Ⅳ章 家電量販店業

1. 家電量販店業とは

家電量販店とは、テレビ、パソコン、オーディオ等の家電製品を大量に仕入れ、安価で消費者に提供することを基本戦略とする小売店をいいます。大量仕入、大量販売という業容から分かるように、まさに薄利多売を生業としている業界といえます。

近年、大型量販店同士の低価格販売競争が常態化しており、家電メーカーからの仕入値をいかに安くするかが、戦略成功、利益獲得のキーとなっています。そのため、家電メーカーに対する価格交渉力を高めるための大量仕入れが必要不可欠とされ、そのことが、近年みられるような家電量販店同士の合併、業務提携へと向かわせている要因と考えられます。いわゆる大手家電量販店であっても、買収や統合によって規模を拡大しなければ、激しい価格競争の中、生き残ることは至難な状況といわれています。

2. 家電量販店業の特徴

(1) トップダウン式の組織形態

家電量販店は急激にチェーン展開したという経緯があり、かつ歴史も比較的浅く、トップダウン式の組織形態となっている企業が比較的多く見受けられます。

また、多店舗展開の結果、店舗数が非常に多く、各社、安売りのためローコスト体制に注力する必要がある状況にあると考えられます。

当該観点からは、店舗現金、店舗在庫の管理や本社・本部等による店舗のモニタリング体制の有効性に留意が必要といえます。

(2) 業界特有の課題

家電業界を全般的に管理統括する業界団体は現在存在していません。過去、1972年に設立された日本電気大型店協会(NEBA)がありましたが、2005年8月末をもって解散に至っています。

いずれにしても、家電量販店各社の安売り競争が激化している中、業界を全般的に統括する業界団体が存在しない事情もあり、メーカー派遣販売員、リサイクル法違反、ダイレクトメール等で社会的にも話題となっています。よって、そのような営業面及びコンプライアンス面での問題の発生可能性はないか、会計処理に関係する問題はないかなどに、留意が必要といえます。

(3) 商品差別化の困難性

百貨店、スーパー等、他の小売業に比して家電量販店の取扱商品は特に差別化が困難であるといえます。取扱商品の一部にはPB(プライベート・ブランド)商品もありますが、その売上構成比は非常に僅少であり、大部分がNB(ナショナル・ブランド)商品を中心に構成されています。そのため家電量販店各社における品揃えの違いはほとんどなく、このことが価格競争激化の要因となっています。

(4) 商品サイクルの短さ

家電量販店業界の取扱商品は商品サイクルが特に短いという特徴があります。中でも、AV・情報家電はメーカーが年に2回程度は新商品を発表するという状況にあります。よって商品の販売時期を誤ると旧商品を多く抱えてしまい、結果、在庫滞留等が発生してしまいます。従って、適正な在庫管理の整備と遂行が特に重要といえます。

3. 家電量販店業の業務の流れ

(1) 仕入

多品種の商品を取り扱う中、在庫切れ、売れ残りを極力起こさないようにするため、家電量販店は基本的にPOSにより発注管理をしていることが多いです。POSからの情報に基づきメーカーに発注することになりますが、その手法としては電話又はFAXの他、EOSによるオンライン発注システムの利用も多く見受けられます。発注された商品はメーカーから直接店舗へ納入されるほか、物流センターを経由するケースもあります。

(2) 販売

家電量販店における販売業務のベースは店舗での直接販売です。その他、徐々に拡大中のWeb販売もありますが、圧倒的割合を占めているのが店舗販売です。店舗販売における業務は、POSにおけるバーコードリーダーでの読み取りによって実行されるケースがほとんどです。また販売にあたっては、現金値引、ポイント付与等を実行するケースが多いですが、その手法は各量販店により様々です(ex.現金値引率・ポイント付与率の差別化、他製品とのセット販売等)。

(3) 売上金管理

店舗販売、配送先の顧客からの入金等、基本的に個々の取引金額は少額でも販売取引は多量に行われ、日々の現金取扱量も多量となります。そのため各店舗では釣銭準備金として一定額の現金が保有されることとなりますが、売上金は基本的に日々警備会社等を通じて本社等の管理口座に入金されることが多いと考えられます。内部統制の観点からは、本社等の現金集中管理部署におけるチェック体制の構築が重要といえます。

(4) 棚卸

家電量販店においては、多品種、大量の商品を取り扱うため、数量、保管状況、滞留状況等、日々の在庫管理はもちろん、定期的な棚卸によってその残高状況を把握することが必要不可欠となります。

家電量販店での棚卸作業は店舗での棚卸作業と物流センターでの棚卸作業の二つに大きく分けられますが、特徴的なものは店舗での棚卸作業です。店舗での棚卸作業は商品がショールーム内に陳列されていたり、見本品としてディスプレーされていたり、メーカーからの預り品が陳列されていたりするため、棚卸実施日の検討、見本品と通常品との区別・劣化状況の把握、棚卸対象品と預り品との区別整理等が特に重要と考えられます。

4. 家電量販店業の会計処理の特徴

(1) ポイント制度

各大手家電量販店においては、価格競争激化からポイント付与率を上げており、ポイント発行残高も増加傾向にあります。ポイントは発行元である家電量販店での商品購入の際に現金同様に使用できる権利を有します。

ポイントに関する明確な会計処理基準はわが国では設定されていません。従って、企業会計原則等に則り会計処理を行うところ、「ポイント及びプリペイドカードに関する会計処理について」(金融庁:平成20年6月18日公表、7月2日改定)がポイントの会計処理にあたり参考となるものであることから、当該公表物をベースに会計処理を検討することが多いと考えられます。

ポイントの会計処理方法は、販売条件と考えるか販売促進と考えるか、及び合理的な見積りの可否などによって異なりますが、具体的には次の3種類が考えられます。現行実務上、ほとんどの家電量販店は、過去の実績データが蓄積してきたこと等により2.を採用していると考えられます。

  1. ポイントを発行した時点で費用処理(又は売上のマイナス処理)
  2. ポイントが使用された時点で費用処理するとともに、期末に未使用ポイント残高に対して過去の実績等を勘案して引当金計上
  3. ポイントが使用された時点で費用処理(この場合は引当金計上しない)
【2. 会計処理の仕訳例】

(ポイント発行時)特段の処理は行わない

(ポイント使用時)

(ポイント使用時)

* 利用ポイント50円分×商品の原価率80%

(決算時)

(決算時)

* 翌期以降に使用見込みポイント100円分×商品の原価率80%

(2) リベート処理

リベートは、割戻しと訳されるもので、仕入代金の一部相当額を支払人に戻すこと、又はその戻した金銭のことをいいます。仕入代金そのものを減額する値引きや割引とは異なり、通常仕入代金の支払いとは別に行われます。

なお、リベートは慣行又は費用対効果によって決まりますが、リベート率の設定に不透明な部分があると好ましからぬ金銭・経理操作に用いられるおそれがあります。このため、家電量販店業界におけるリベートの取扱いは大きな論点といえます。リベートは、その性質から次の4種類に分類できます。

  1. 販売促進を目的としたリベート
    …販売数量に応じて収受される売上補償リベート及び仕入数量に応じて収受される仕入補償リベートが該当します。
  2. 取引価格の見直しのために支払われるリベート
    …例えば在庫補償リベートと呼ばれるものが該当し、これは旧製品を整理、売り切るために支払われるリベートです。
  3. 取引先の各種要請に対応するために支払われるリベート
    …協賛金や粗利補填リベートといわれるものが該当します。
  4. 取引条件の改善等、施策誘導のために支払われるリベート
    …現金リベートなど、施策誘導のため費用負担の一部をメーカーに補填してもらうものです。

家電量販店業界の慣習として、最終販売価格の維持を重視する家電メーカーは量販店への販売価格(下代、仕切)を下げたがらない傾向があります。しかしながら、特に季節傾向が強い家電商品については陳腐化が著しく早く、販売価格の下落にかかる利益補填をリベート支払いにて実施していることが考えられます。

また前述のとおり、リベート制度には種々様々なパターンがあります。会計上は、個々のリベートの内容、性質を検討し、整合する会計処理を選択することが重要といえます。

まとめ

本稿では2回にわたり百貨店業(衣川清隆執筆)、スーパーマーケット業(津田昌典執筆)、家電量販店業(葉山良一執筆)に係る特徴、業務の流れ、会計処理及び内部統制の特徴を中心に解説してきました。本稿が特に同業界に会計、監査等の立場から初めて関与する方々の理解の一助になれば幸いです。

参考文献等

  • よくわかる流通業界 月泉 博 日本実業出版社
  • 第11次 業種別審査辞典第3巻 金融財政事情研究会 ぎょうせい
  • スーパーマーケット業界用語集2000 社団法人 スーパーマーケット協会
  • 日本チェーンストア協会 www.jcsa.gr.jp
  • よくわかる家電量販店業界 山名一郎 日本実業出版社