新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックに対応し、パンデミックからの回復を図る中で、世界各国の政府、企業、コミュニティーは過去に例を見ない課題に直面しています。同時に、今回の危機により、医療へのアクセスから所得格差、民族間の不平等に至るまで、既に存在していた社会的圧力が強まりました。パンデミックの影響への対処に取り組むこと、また、企業がソリューションの一端を担うことを期待される中、こうしたグローバルな課題には終わりが見えません。
この9月に実施したEY CEO Imperative Studyの結果から、「CEOの67%が、グローバルな課題に取り組む上で、ステークホルダーから中程度から極度のプレッシャーを受けている」ことが分かりました。大企業のリーダーの場合、この数字は10%上昇します。同調査では、CEOの5人に4人が「グローバルな課題に対して有意義なアクションを取った企業は、政府、ビジネス、一般社会からリターンを得ることができる」と回答しています。
EY CEO Imperative Study
67%のCEOが、グローバルな課題に取り組む上で、ステークホルダーから中程度から極度のプレッシャーを受けている。
実際のところ、今回のパンデミックでこのプレッシャーは強まりました。エデルマンが6月に発表した報告書によると、「社会問題の解決」をブランドに期待する人は80%に上っています。一方、JUST Capitalによると、米国人の89%が新型コロナウイルス感染症危機を「大企業が『リセットボタン』を押し、従業員、顧客、地域社会、環境のために正しい行いをすることに重点を置くチャンス」と捉えています。収益ばかりを重視していては、こうした期待に応えることや、この歴史に残る流動的で不確実な時期を切り抜けながら会社を導くことはできません。また、世界的なパンデミック、気候変動、雇用創出など、今日の課題を解決する一助にもならないでしょう。
では、何が問題なのでしょうか? 多くの企業がパーパスを明確にする一方、それを組織全体にきちんと浸透させ、実現させる具体的な対策を講じているところはほとんどありません。この不確実な時期を乗り切り、勝ち抜いていくには、従来の経営手法はもはや十分ではないことを言葉と行動の両方で示す必要があります。
パーパスは、付け足せば済むものではありません。片手間に取り組めるようなものではないのです。ビジネスモデルと長期戦略の中核にパーパスを据えなければなりません
今日では、従業員や顧客から、コミュニティー、地球、社会に至るまで、幅広いステークホルダーのために奉仕することが企業に求められるようになってきました。そのため、高い目的意識を持ち、短期的な利益や株主の利益以外にも取り組むことが不可欠です。「今はビジネスにとって大きな転換期です」とDi Sibioは述べています。「ビジネスの成功は収益だけで決まるのではないことが、以前にも増して明らかになっています。自分たちを取り巻く社会の長期的な繁栄を支えることもまた、重要な要素です。CEOは、ビジネスにとって有益なことと、ステークホルダーにとって有益なことのどちらか一方に絞る必要はありません。両方を採ることができ、またそうしなければならないのです」
EYのパーパス追求が本格的に加速したのは、より良い社会の構築を目指して(Building a better working world)という理念(Purpose)を明確に示した2013年のことです。EYはメンバー、そしてクライアントに、私たちが何を行っているかだけでなく、その理由をも知ってほしいとの思いから、EYの理念についての対話をEY内と業界の両方で開始しました。ところが程なくして分かったのは、理念をもっと目に見えるかたちで有意義に実現させたいというEYのメンバーの要望でした。
そこでEYがクライアントと行ってきたこれまでの仕事を振り返り、メンバーの声に耳を傾けたところ、組織のパーパスを実現する際に柱となる4つの重要項目が浮かび上がりました。
- パーパスに関してリーダー陣の認識を一致させる
- パーパス追求に対する従業員のエンゲージメントを高める
- パーパスをカスタマーエクスペリエンスに組み込む
- パーパスを戦略に据える

第1章
パーパスに関してリーダー陣の認識を一致させる
パーパスは経営トップから始まります
パーパスは経営トップから始まります。取締役会と経営陣のコミットメント、関与、エンゲージメントなしに、企業がパーパスの実現を命じることはできないでしょう。仮にできたとしても、パーパスとは何か、そしてパーパスが何を意味しているかについて、理解とコミットメントをリーダー陣が共有しなければ、それを真に浸透させることはほぼ不可能です。パーパス起点の経営では、リーダー陣しか決めることができない難しいトレードオフが必要とされます。特に、短期的リターンよりも長期的投資を優先させるという判断がこれに該当します。マーケティングや企業責任に関する決定ではなく、戦略的な意思決定です。
私はこれまで、人を引きつける真のパーパスを掲げる大小さまざまな組織と仕事をしてきました。成功している企業には1つの共通点があります。リーダー陣がプロセス全体に積極的に関与し、これを優先課題としている点です。この取り組みのために、彼らは最も貴重なリソースである自分の時間を可能な限り確保しています
2018年から2019年にかけて、EYは世界的な消費財メーカーと緊密に連携し、CEOの交代をサポートしました。退任するCEOは長期的価値を企業パーパスの中心に据えており、それが着実な成長、大きな株主利益、顧客と従業員からの信頼向上につながっていました。しかし、このように良い方向に向かっているにもかかわらず、パーパスに対する企業としてのコミットメントが経営陣交代後も維持されるかどうかは不透明でした。
9カ月間にわたって共同のワークショップとコーチングを重ねた結果、一丸となって企業パーパスにコミットすることが新しい経営陣の間で再確認できましたが、その過程で厄介な課題に対処する必要がありました。会社のポートフォリオに存在した言行不一致な点を表面化させ、認め、折り合いをつけるという課題でした。具体的には、企業パーパスの中核を成す、会社が公に示しているサステナビリティへのコミットメントに沿わないブランドがその会社には数多くありました。
パーパスを実現するということは、時として苦渋の決断を下し、その責任を負うことを余儀なくされることを意味します。「経営陣と新任のCEOはパーパスへのコミットメントを改めて示しましたが、それだけでは、同社が今後もパーパスを実現し続けることは保証できません」とEY Global Talent Development Leader兼People Advisory Services Global Executive MemberのAnna Kahnは述べています。「経営陣の賛同なしに実現を続けることはほぼ不可能でしょう」
巨大な複合体のグローバル企業であれ、小規模な地場企業であれ、リーダー陣が心から信じなければ、パーパスに対する真のコミットメントを引き出すことはできません。そのためにはリーダー陣が個人でパーパス追求を続け、時間をかけて、自らの、ひいては会社全体の信念と存在意義を深く掘り下げる必要があります。
この点はEYでも同様です。EYは四⼤ファーム(会計ファーム)で初めて、「より良い社会の構築を目指して(Building a better working world)」という理念を掲げましたが、すぐにそれだけでは不十分だということに気づきました。この情熱を元に、EYのメンバーとクライアントのエンゲージメントを有意義なかたちで向上させる必要があったのです。そこで、EYはまずはリーダー陣から着手しました。
昨年、全世界でEYのメンバーファームのパートナーを調査したところ、EYの理念に強い共感を覚えるものの、ファーム全体にもっと深く浸透させたいという声が聞かれました。トルコのストラテジー・アンド・トランザクションのパートナーであるDemet Ozdemiは「私たちEYの理念は壮大ですが、適切なパーパスです」とした上で、「何よりも大切なのは『実行に移すこと』、すなわち、それを達成するために具体的にどのようなアクションを取っているかです」と指摘しています。英国の税務パートナーであるStuart Chalcraftも同様にこう述べています。「私たちが行う全てのことにパーパスを組み込む必要があります」
この8月、Carmine Di Sibioは、米国を拠点とする企業のCEO 180人の1人としてビジネス・ラウンドテーブルのステートメントに署名し、「企業のパーパス」とは株主だけでなく全てのステークホルダーに奉仕することであると表明しました。それから2カ月後、この言葉を実行に移すため、EYは戦略に理念を据え、クライアント、メンバー、社会のために長期的価値を創造するという土台の上に戦略を構築する方針を明らかにしました。その一環として、EYは理念と行動を具体的に結びつける取り組みを積極的に進めています。
「より良い社会の構築を目指して(Building a better working world)」という理念へのコミットメントを明言化にしてから7年以上がたった今でも、EYはこの理念を実現するためのアプローチを常に見直し、状況に合わせて変更を加えています。リーダー全員が引き続き理念を優先課題としてこそ、EYは有意義なかたちでメンバー、クライアント、協働する関係者にこれを体験してもらうことができるのです。

第2章
パーパス追求に対する従業員のエンゲージメントを高める
組織のあらゆるレベルでパーパスへのコミットメントを示さなければなりません
リーダー陣のエンゲージメントは不可欠ですが、それだけでは十分でありません。組織のあらゆるレベルでパーパスへのコミットメントを示さなければなりません。そのために必要なのは、実行すべき2つの重要な対策のためのサポートとリソースです。実行すべき対策とは、個人のパーパスが組織のパーパスとどのように結びつくかを示すことにより、自分にとって最も大切なことは何かを従業員一人ひとりが見極められるようサポートすること、そして、パーパスを意思決定の基準として使用できるようにすることです。
数年前、ある世界的な金融サービス企業であるクライアントは転換期を迎えており、デジタル・世代・地政学的分野におけるグローバルトレンドの変化によって、これまでとは異なる考え方、行動、経営が求められていることに気づきました。新任のCEOは、組織を再編するための土台かつ指針としてその企業のパーパスを用いる意向を固め、パーパスを会社が行っていなかったこと全てに結びつけようとしました。
同社は組織のパーパスのステートメントとビジョンを正しく策定するため、構造化インタビュー、フォーカスグループ、経営幹部のグループセッションを実施し、取締役会をはじめとするあらゆるステークホルダーの声に耳を傾けました。その後、このパーパス起点の文化を組織全体で実現するためのロードマップを作成し、戦略・経営目標などの「大きな」問題だけでなく、企業パーパスが従業員一人ひとりの共感を得ることができるか、またそのためにはどうすればいいかといった「小さな」問題にも対処しました。このプロセスに従業員を取り込んだことで、年次人事調査では従業員のエンゲージメントが向上しました。一部の市場では2桁の伸びを示し、会社のパーパスを知っていて、信じているかについての質問ではほぼ全てで改善が見られました。
この企業の経験談は、従業員が自分たちのパーパスを見いだし、その実現に取り組み、パーパスを仕事に結びつけることができれば、一人ひとりにとっての機会、そして組織全体にとっての機会が生まれることを物語っています。個人のパーパスという概念の捉え方は人によってさまざまです。個人のパーパスを、やる気を喚起し、意味付けをするものと考える人もいれば、目指すゴールと考える人もいます。定義が何であれ、個人のパーパスを明確にすれば、自分にとって何が最も大切かを深く理解するために役立ちます。自分の優先順位と会社の優先順位を結びつけることができ、パフォーマンスの向上につながるのです。
また、自分のパーパスを明確にすることは、仕事の充実感と自分の影響力を高め、他の人の能力を最大限に引き出すための下地を整えることにもなります。それにもかかわらず、多くの人々が仕事の面ではパーパスを気軽に話せるものの、自分個人にとって何が本当に大切かをはっきりと伝えることには気後れしています。このように気軽に明確に口に出すことができないため、個人のパーパスと経営者のパーパスを結びつけるには困難が伴います。
なぜこの点が重要なのでしょうか? 業績が好調な企業は、従業員が個人のパーパスを企業パーパスに結びつけやすい環境づくりをしています。Harvard Business Reviewが実施した調査の結果から、自分の仕事に意義を感じると、その人のパフォーマンスは向上することが分かりました。報告では、健康で幸福であればあるほど、良いチームメンバーとなり、挫折からの立ち直りも早いことが示唆されています。強固なパーパスを掲げる組織で働くことは人々のエンゲージメントにとってプラスの効果があるため、従業員の活力向上と離職率の低下につながるのは当然です。
EYでは、入社直後からEYのメンバー個人のパーパス追求をサポートすることによって、「より良い社会の構築を目指して(Building a better working world)」の実現に努めています。パーパスの追求は、EYを離れ、世界各地で活躍する100万人を超えるEYアラムナイ(卒業生)の1人になっても続く道のりです。こうした取り組みの1つに、パーパスについて学んだ経験を広く伝える活動があります。一口に学びの経験と言ってもその形態はさまざまです。基礎的なeラーニングモジュールもあれば、EYが設けたカウンセリングファミリー制度の四半期に1回のディスカッションや、メンバーが自分のパーパスを見いだし、会社と自分のパーパスを直接結びつけられるようにすることを主目的とした専用プログラムもあります。
こうした経験がメンバーのキャリアジャーニーのあらゆる場面に組み込まれているため、EYでは新入社員からトップの経営幹部まで、自分の仕事が理念にどのように貢献しているかを全員が明確に述べ、理解し、触発されています。経験上、真実のストーリーとして伝えることほど、パーパスを実現する有効な手段はありません。EYがパーパスを実現するあらゆる取り組みの基盤にストーリーテリングを据えているのはこのためです。ストーリーでは、EYのメンバーが日々の仕事でどのように自分のパーパスを掲げてリーダーシップを発揮しているかを紹介しています。ここには、特別なクライアントと共に社会に役立つ特別な仕事を行うことであっても、単にクライアントに情報を提供し、ステークホルダーの利益に配慮した的確な経営判断を下せるようにする業務であっても区別はありません。

第3章
パーパスをカスタマーエクスペリエンスに組み込む
顧客のために、組織のパーパスを最も大切にする必要があります
パーパスを起点とする優れた企業は、自社のパーパスを明確かつ率直に、一貫性を持って顧客に伝えるとともに、パーパスをカスタマージャーニー全体の中核としています。
EYが先日サービスを提供したテクノロジー系のスタートアップ企業は、上質なグラフィックデザインを手軽に利用できるようにすることで世界的に評判を得ました。クリエーティブなプラットフォーム企業が、どのように自社のパーパスでカスタマーエンゲージメントを向上させながらより広い社会の期待に応えているかは、すぐには分からないかもしれません。それでもこの企業は、さまざまな人たちが効果的に仕事を行えるようにするツールを開発することで、自社のパーパスのステートメントに示した約束をしっかりと果たしています。
同社が早期に成功を収めることができたのは、オンラインデザイン市場の隙間を見つけ、商品とサービスの開発を進めながら顧客のフィードバックを収集し続けたからです。しかしながら、その急速な成長を達成できたのは、一貫して企業パーパスに沿って効果的にカスタマーエンゲージメントを向上させ、エンプロイーエクスペリエンスを重視するとともに、オンライン学習カリキュラムや広く利用できる製品スイート、同じ方針を持った組織とのパートナーシップによりエコシステムを構築できたからでした。
共に仕事に取り組む中で、パーパスを重視する同社の姿勢は、EYのアクションにも大きな影響を与えました。同社の指針となる原則と期待が明確かつ率直に示されたため、その意向に合わせてEYのアプローチを変えることが必須となりました。同社を数十億ドル規模の企業に成長させるサポートを行うにあたって、EYは自身の理念と、同社のパーパスのすり合わせを図りました。「パーパスの共有から生まれる力に値段などつけられません」と、EYのあるチームリーダーは述べています。このようなEYの組織内の人と人とのつながりは、同社が急成長を遂げる中でも、顧客との信頼を築き、より深く、より有意義な関係を構築するための基盤となりました。
時に利益を犠牲にしてまでも顧客のためにパーパスを実現した組織の例は枚挙にいとまがありません。例えば、顧客が頻繁に買い替えなくてもすむよう、商品を無料で修理する衣料品企業があります。ほかにも、ある消費財業界のコングロマリットは自社のブランドの価値を守り、消費者が日々の買い物で購入するものに関して自らの立場を明確に示すことができるようにしています。ある石油ガス会社は、安定した利益を上げる中で、風力発電に全面的に移行することを決断し、また、ある世界的な医療・製薬会社は戦略コミュニケーションや研究開発の取り組みをはじめとするあらゆる活動において、自社のパーパスのステートメントを目に見えるかたちで示しています。
それぞれ違いはあるものの、これらの企業には1つの大きな共通点があります。どの企業も、顧客との関わり合いにおいてパーパスを最も大切にしているという点です。状況が変わり、顧客のニーズが変化する今、パーパスを起点とする企業はそれに合わせた対応をしています。パーパスによって目の前の課題に対処し、イノベーションを起こして、顧客のニーズに効果的に応えているのです。

第4章
パーパスを戦略に据える
自社の多くのステークホルダーのために奉仕しようとする企業にとって、パーパスは企業の社会的責任の一種ではありません。パーパスとは、戦略です
世界的な製薬会社であるクライアントの1社は、2019年早々、今の経営方法ではもはやステークホルダーの期待に十分に応えることができず、特に環境・サステナビリティへのコミットメントを見直す必要があると考えるようになりました。従業員の引き込みとつなぎ止め、顧客の需要への対応、パーパスを起点とする真のブランドの維持から、事業を展開する地域社会への貢献を強化する取り組みまで、同社にはサステナビリティについての立場を変化させなければならない数々の理由がありました。
EYのサポートを受けて、同社は、サステナビリティを事業戦略の不可欠な要素にする枠組みを作りました。枠組みを統一し、新たな指標を定めたことで、サステナビリティへの取り組みを評価し、必要に応じて修正を加え、進捗状況を常に把握し、株主への年次報告にサステナビリティ戦略を盛り込むことができるようになりました。また、サステナビリティ基準を意思決定のプロセスに確実に取り込むことで、新規投資に対する判断も強化しています。こうしたアクションによってサステナビリティが中核業務に組み込まれ、企業のDNAに浸透することになります。
数カ月前、同社の取締役会は持続可能な新規開発戦略を承認し、その戦略を展開する権限を経営陣に付与しました。今度はこの機運を多くの国外拠点で上層部からトップダウンで醸成していく必要がありますが、組織としてはいろいろな意味で最も難しい作業を終えたといえます。サステナビリティの理解を深め、寄付(企業の社会貢献活動)、ボランティア活動(CSR)、環境コンプライアンスにとどまらず、サステナビリティの取り組みを中核事業に全面的に組み込み、推進する姿勢へと転換したのです。
このような取り組みは、同じ方針を持った組織が垣根を越えてパーパス起点のビジネスをより広範に推進していくことで充実させ、強化することができます。企業が有言実行しているかどうかを示す非財務的指標のトラッキングと報告では、特にこのような連携が重要です。企業の長期的価値創造戦略の策定と実行のサポートにEYが力を入れる背景には、そうした考えがあります。
例えば、四大ファーム(会計ファーム)、バンク・オブ・アメリカ、世界経済フォーラムの国際ビジネス評議会(WEF-IBC)は継続的なコラボレーションとして、非財務的業績の報告方法を統一する共通の指標の策定に取り組んでいます。具体的には、全てのステークホルダーのために価値を創造するパーパスの設定、従業員の健康と安全、賃金平等、温室効果ガス排出量抑制をはじめとしたESGパフォーマンス指標などです。
9月の「持続可能な開発インパクト・サミット」において、WEF-IBCのメンバー120社のほか、一部の企業、投資家、外部組織からの詳細な参考意見に基づき、このイニシアチブが正式に提げられました。このパートナーシップは、企業が自社の業績の測定方法を劇的に向上させ、従業員や顧客からサプライチェーン、事業を展開する地域社会、地球、社会全体に至る全ステークホルダーに奉仕できるようにする力を秘めています。
世界的な消費財メーカーであるクライアントとの事例において、これらの取り組みが持つ可能性が裏付けられています。善意を持ち合わせているものの、それをどうやって行動に移せばいいか分からない組織に共通するジレンマに同社は直面していました。既に確固たるパーパスのステートメントはありましたが、リーダー陣が望んでいたのは、単に耳障りの良いステートメントを作ることではなく、自社の製品とサービスがステークホルダーに与える財務的・非財務的影響を真に把握できるようにすることでした。EYは幅広い影響を測定する枠組みを策定して、同社がそうした影響についての理解を深められるよう支援し、さらにデータによって経営判断を周知するためのサポートを行いました。
信頼度と質が高く、広く利用されている共通の指標に照らして報告書を作成すれば、企業はさまざまなステークホルダーへのサービスを測定する時間を短縮し、より多くの時間をそのサービスの提供にあてられます。ひいては、非財務的指標の達成度を率直に、隠し立てすることなく伝えることで、仮に目標に届かなかったとしても、自社のパーパスの達成度を評価して伝えることができます。これにより信頼関係が築かれ、カスタマーエンゲージメントが向上し、新たなパートナーシップのきっかけとなり、自社のコミットメントが本物であると実証されます。
今日では、企業には単なる財務価値以上のものをもたらすことが求められています。真にパーパスを起点とする組織は、消費者、社会、人に価値をもたらし、全てのステークホルダーに奉仕します。長期的価値に対するEYのアプローチを活用すれば、自社の戦略が投資家など主要なステークホルダーにどのように価値をもたらすかを示す指標を策定できます
EYでは、「より良い社会の構築を目指して(Building a better working world)」という理念の実現に向けた進捗状況を長期的価値の4つの柱からトラッキングしています。実際、2019年には初めて、クライアントやメンバー、社会全般のためにEYがどのように長期的価値を創造しているかを中心に、アニュアルレポートのGlobal Reviewをまとめました。今年のGlobal Reviewも引き続きこの取り組みに焦点を当て、あらゆるステークホルダーに長期的価値をもたらすというコミットメントの達成度について、概要を説明しています。
これらのコミットメントは単なる抽象的なものではありません。EYはこれらのコミットメントを戦略の中心に据え、今後EYの最も重要な短期的・長期的経営判断を示すことができるよう力を尽くしています。
結論
多くの企業が自社のパーパスの定義や再定義に力を入れています。組織の規模や所在地に関係なく、あらゆるステークホルダーに奉仕する必要性を企業が認識しているという事実そのものが、前進を示すサインです。とはいえ、自社のパーパスを明確に掲げることは第一歩にすぎません。本当に重要なこと、つまり、意味のある変化をもたらすこととは、そのパーパスを社内外に浸透させるための明確で統一されたアプローチを採用することです。
パーパスの追求では、リーダー陣の認識を一致させ、従業員の実践を促すことからカスタマーエンゲージメントや戦略に至るまで、あらゆる段階が極めて重要であり、継続的な取り組みが必要です。パーパスを策定すればそれで終わりというわけではありません。パーパスは全ての従業員、顧客との関わり合い全般、リーダー陣によるあらゆるステートメント、短期的・長期的な全ての意思決定、戦略全般を通して、日々実現していかなければなりません。状況が変化する中、EYは常に変わることなく理念を指針とし、それに新たな意味を与えています。
組織は個人の集合体であり、理念をどれだけ行動に移すことができるかどうかは、メンバー全員をどれだけ触発し、エンゲージメントを向上させられるかによって決まります。EYはまだ全ての答えを持ち合わせているわけではありません。ビジネスの進め方を変え、理念にのっとり、長期的価値をもたらすというコミットメントを進めるべく、今も真摯に取り組んでいるところです。
サマリー
パーパスを起点とする優れた企業は、リーダー陣の認識を一致させ、パーパスの追求において従業員のエンゲージメントを高める機会を作り、カスタマーエンゲージメント向上の中核にパーパスを置くことでパーパスを実現しています。これらの対策全てを支持することが、パーパスを自社の戦略に据え、そうしたパーパスによって実際の経営判断を周知することへのコミットメントになります。